教育界への左翼浸透、過激な性教育を支援

「自由な性」で家族崩壊狙う

 国会で論戦が続く「モリカケ問題」で、野党側が描く構図は「政治の不当介入」によって、行政が歪(ゆが)められたというものだが、「不当介入」あるいは「支配」という言葉を使って保守陣営を攻撃するのは左派の常套(じょうとう)手段である。

 中でも、よく攻撃の対象となるのは道徳教育で、その論法は、国家が個人を支配するためにあるのが道徳教育だというのだ。その典型的な論考が左派の月刊誌「世界」6月号に載った。名古屋大学大学院教授の中嶋哲彦の「学びの統制と人格の支配」だ。

 道徳の教科化にみられるような道徳教育の強化や、学習指導要領の改訂による高校の必修科目「公共」の新設などについて、中嶋は「学校教育を児童生徒の人格支配の手段に変質させかねない内容にあふれており」と、「人格支配」という文言を使って批判する。

 また、2006年12月の教育基本法の改正で、教育の目標に「我が国と郷土を愛する」ことが加えられたことに関しても言及している。つまり、「学校教育において児童生徒に何か特定のものを無条件に愛するよう指導すること、また教師にそのような指導をさせることは、児童生徒及び教師の内心の自由に対する侵害であり、人格の独立に対する脅威をもたらしかねない」と主張。その上で、教育基本法の改正を「改悪」と表現する。左翼がよく使うレッテル貼りである。

 冷戦終結から30年近くになり、マルクス主義の正当性を声高に叫ぶ人間は少なくなっても、国家と個人を対立するものと捉え、社会の事象を支配・被支配の関係から分析する論考がいまだに掲載されるのが日本の論壇であり、特に教育の分野への左派勢力の浸透が続いていることを、「世界」の論考は示している。

 その一方で、月刊誌6月号に、保守陣営から、道徳教育や郷土愛を標的にする左派を批判する論考も見られる。最近、保守色を強める「新潮45」は6月号で、「朝日の論調ばかりが正義じゃない」と題した特集を組んでいる。その中に、教育問題における朝日新聞の論調に反論を試みる論考がある。ジャーナリスト高山正之の「とことん『家庭』を壊したい新聞社」だ。

 この論考が取り上げたのは今年3月、東京都足立区の区立中学校で行われた性教育。「本来、高校で教えるべき人工妊娠中絶や避妊具をどう取り付けるか、懇切丁寧に指導していた」というもの。自民党の都議がこの行き過ぎた性教育を議会で問題視したことを批判した朝日新聞について、「まっとうな都議の抗議がいたく気にいらないらしい」「なぜ、朝日新聞はこれほど劣情刺激のための性教育に寛容なのだろうか」と疑問を呈しながら、高山が出した答えは次のようなものだ。

 共産主義革命にとって、祖国愛、郷土愛、伝統、家族は「邪魔」。特にドイツの新左翼フランクフルト学派はこれらの崩壊を狙い、「自由なセックス」を煽(あお)っているというのだ。それが行き過ぎた性教育につながり、さらにその性教育を「懸命に支援してきたのが朝日新聞」だという。

 この特集で、衆議院議員の杉田水脈(みお)も「人の心の内には、教師でも軽々に足を踏みいれるべきではなく」(4月8日の社説)などとした朝日新聞の道徳の教科化反対を批判。そして、「いま日本は『ふつう』を規定することをすごく怖れる社会になっています」としながら、道徳教育は「世の中の常識や『ふつう』を教えること」で、その「ふつう」を道徳でしっかり教えるべきだと訴えている。道徳、郷土愛、家族愛と聞けば、反射的に国家による個人支配という構図を当てはめる左翼よりもよほど「ふつう」の主張である。

(敬称略)

 編集委員 森田 清策