コロナ収束への課題 若者のワクチン接種がカギ
ワクチン接種が進み、その効果が数値にはっきり表れる中、接種促進が新型コロナ収束のカギの一つとなっている。ここで具体的な数字を出すまでもなく、接種した層では、感染率も重症化率も、接種しない層より明らかに低くなっている。
政府の統計によると、ワクチン接種を2回終えた国民は全体4割強、接種が早く始まった65歳以上では9割に達した。昨年1月から8月まで、厚生労働省のコロナ対策司令官(医務技監)としてコロナ対応に従事した国際医療福祉大学副学長の鈴木康裕は「新型コロナの変異種が強毒化しないという前提で申し上げるならば、日本国内は今年の秋には収束への目途が立つと考えています」と楽観的な見方を示している(「今秋にはコロナ収束への目途が立つ」=「Voice」9月号)。
死者の9割以上を占める60歳以上のほとんどが秋にはワクチン接種を終える見込みだ。季節性インフルエンザの致死率は0・1~0・2%だが、ワクチン接種が進めば新型コロナの致死率は0・05%以下まで下がると見込まれる。
だから、「今秋には季節性インフルエンザよりも『人が死なない』ウイルスになると想定できる」というのである。致死率だけを考えれば十分成り立つ見方だ。
逆に、もしワクチンがなかった場合、どうなっていたか。感染力の強いデルタ株に置き換わったことで、世界の混乱は現在とは比較にならないほど悲劇的な状況になっていたのは間違いない。
ワクチン接種が進んだとしても、コロナとの闘いはまだまだ続くし、死亡者もゼロにはならないから、気を緩めることはできないが、接種がスムーズに進めば日本の状況が好転することは期待できる。後は、それまでに医療崩壊をどう食い止めるかだ。
そこで、課題となるのは若者層への正しい情報伝達だ。重症化のリスクが低い年齢層が危機感を持ちにくくなるのは、ある程度やむを得ないことではある。しかし、若者層で罹患(りかん)者が増えれば当然、その他の層においても、罹患者だけでなく重症者・死者も増えてしまう。このため、若者層におけるワクチン接種率を高めることは、この層の行動変容とともに、重重課題となるのである。
この点、鈴木は、「若者に向けた言葉の発信が重要であり、しかし実際には不足していたと痛感しています」と反省するとともに、「陽性者との接触が確認されていなければ、一定の基準でイベントへの参加や飲食店への入店が認められる。このように感染対策と行動範囲を結びつけられれば、若者も納得感をもったうえで対策に協力したのではないでしょうか。要するに、彼らの行動を変えるための『仕掛け』が足りなかった」と率直に述べている。
一方、啓発次第で、若者であっても接種への意識が変わることを示しているが、北海道医療大学学長の浅香正博の論考「コロナ脱出のカギはワクチン接種にあり。」(「潮」9月号)だ。
浅香は自分が受け持つ講義で、学生たちに次のように説明している。同大学の学生は全員が国家試験をうけ、「さまざまな分野で患者さんを診(み)ることになる立場であることを忘れてはいけません」と述べた上で、「ワクチンを打たないことにより、他の人にウイルスを感染させる可能性がある以上、北海道医療大学の学生のワクチン接種は必要であると思っています」と、接種を促すのだという。
「こうした声かけ」の結果、90%近くの学生が接種を希望し、7月7日に第1回目の接種を完了した。このため、夏休み明けの9月からは、これまでのオンライン授業を対面式の授業に切り替えることができるようになっている。
浅香によると、北海道内の某大学でアンケート調査したところ、「ワクチンを打ちたい」という学生は42%にとどまったそうだ。浅香が学長を務める大学が医療系ということを考慮する必要はあるが、指導者の明確なメッセージ発信によって、学生の意識が変わる例と言える。他の大学でも参考にすべき論考だった。
(敬称略)
編集委員 森田 清策





