社会新報に小泉元首相
反原発デモで左翼の話題に/赤旗に「使える」発言の記事
夏から急に「原発ゼロ」を言い出した小泉純一郎元首相。政界を引退したとはいえ存命する自民党の元首相で一番在任期間が長く、発言力は消えていない。誰を利したかと言えば、政党メディアを見る限りでは社民党と共産党だ。弱肉強食の新自由主義者とかアメリカ言いなりと批判を浴びせてきたが、発言を持ち上げた。
社民党の機関紙「社会新報」11月6日号は、吉田忠智党首と小泉氏との10月29日の会談を伝えた。同党HPに載る写真は会談風景ではなく、吉田党首、又市征治幹事長を両側にした小泉氏の3人が笑みを浮かべた記念写真であり、ニュースというより党の広報。
「政治家時代の原発推進から180度態度を変えたことについて真意を聞きたいとの吉田党首の申し出に、小泉元首相が応じたもの」と記事は書く。党首選で新党首になったばかりの吉田氏は自治労出身で、テレビで顔を売ったタレント弁護士の福島瑞穂前党首と違って地味だ。その吉田党首のお披露目に小泉氏は一役買ったと言える。
小泉氏も社民党には行きやすかったのだろう。政治的な仇敵(きゅうてき)とはいえ自・社は90年代に連立したし、それ以前の自民党単独政権時代には表で対立し裏で手を握る自・社の与野党国対政治があった。かつて小泉氏も国対委員として衆院内を歩き回っていた。
月刊機関誌「社会民主」11月号の特集は「原発再稼働とたたかう」。ここに「さようなら原発1000万人アクション」呼び掛け人の作家、鎌田慧氏が寄稿している。小泉氏の発言に触れた部分に同誌は「小泉元首相の『原発ゼロ発言』は、評価に値する」の小見出しを入れた。
ここで鎌田氏は、「小泉氏に批判的な人たちは、警戒心から眉唾のポーズと批判しているが、これは脱原発運動の成果として歓迎すべきことだ」、「『直感政治家』の小泉氏が、利権に関係なく、『原発の終わり』を宣言したことは、これまでの原発反対運動の対極から始まった、原発反対運動として評価すべきことだ。運動の側はフクシマ以後の自分たちの運動がつくりだした事態として受けとめ、自民党の分裂に力を尽くすべきなのだ」と称賛した。
共産党の機関紙「しんぶん赤旗」は左翼団体が行う反原発デモなどの記事で、小泉氏の発言が引用されている。「全国革新懇交流会 レッドウルフさんあいさつ」(11月17日付)の記事では、「小泉発言について『使えるものは使っていいと思う』と述べ」た「レッドウルフ」というペンネームの反原発活動家女性の小泉発言評が載る。
同紙10月18日付は志位和夫委員長の「大変、注目している」「理が通っている」との記者団への応答を報じたが、記事は控えめだ。ひさしを貸して母屋を取られる警戒があるのだろうか。小泉氏は首相時代にハンセン病控訴断念で脚光を浴びたように、左翼の運動でも“奇襲”で世論の手柄を取ってしまうオポチュニストだ。今回の発言は安倍首相に勧めたい奇策らしい。
解説室長 窪田 伸雄