安全保障関連法案の成立を

太田 正利評論家 太田 正利

大転機迎える防衛政策

日本に対する世界の期待大

 延長した通常国会でも安全保障関連法案審議の与野党の攻防が続いている。日本の防衛政策は画期的な転機を迎えており、なお法案は難産の過程にある。断続的に審議中断の挙に出ていた野党は、自民党議員の失言に追及を加えての世論戦をも挑んでいる。が、この法案成立の暁には、「専守防衛」を基本とする日本の安全保障政策は大転換を経験することになる。

 与野党対立の論点は5月に凡(およ)そ出たように見える。その後の国会審議でも政府・与党と野党の主張は平行線のままである。同14日に政府は新たな安全保障関連法案を閣議決定したが、昨年7月の憲法解釈変更を踏まえ、集団的自衛権の行使を可能にすることが眼目で、概ね次の3点から成る。

 すなわち、第一は国連平和維持活動(PKO)で業務と武器使用権限を拡充するための法改正で、約22年間のPKOを総点検の上、問題点を改善するための改正である。第二は、従来のように政治的リスクを負いつつ特別法の整備という方式を改め、周辺事態法の改正及び国際平和支援法という恒久法を制定するのである。第三は武力攻撃事態法と自衛隊法の改正だった。厳しい限定要因を伴いながらも、必要な武力行使を可能にするのである。

 この時の記者会見で安倍総理は、法案について極めて限定的に集団的自衛権の行使を可能にしたものと説き、同時に「積極的平和主義の旗を高く掲げ世界の平和と安定にこれまで以上に貢献していく」と訴え、また、『戦争法案』などという無責任なレッテル貼りは全くの誤りであり、米国の戦争に巻き込まれるとの懸念に対しては「絶対にあり得ない」と明言した。

 予想されたことだが、閣議決定後から国会周辺や総理官邸前、各街頭で抗議の集会やデモ行進が行われており、参加者が「戦争法案絶対反対」、「9条を壊すな」と反発している。同15日、憲法学者樋口陽一東大名誉教授、小林節慶応大名誉教授等の憲法学者の重鎮等でつくる「国民安保法制懇」が緊急記者会見を行い、「国民にリスクを強いる」として撤回を求めた。

 彼等は「米国重視・国民軽視の新ガイドライン・『安保法制』の撤回を求める」との声明を発表し、審議入りした『戦争法案』の問題点を厳しく指摘したのだ。声明は先ず、安倍総理が4月の訪米でこの法案を事前に公約したことを問題視した上、かかる米国との合意を既成事実として事後的に国会に法案を提出し、その成立時期まで制約せんとする姿勢は民主主義日本の『存立を脅かす』と批判している。

 また、6月4日には衆院憲法調査会で前述の小林教授を含む憲法学者3人が「違憲」見解を述べ、同9日に政府が「合憲」見解を示すなど対立した。

 重要影響事態確保法案として改正される周辺事態法について、1999年当時の小渕恵三総理は自衛隊の活動範囲について「中東やインド洋は想定されない」と国会答弁をした経緯がある。安倍総理は国会審議で「(これらの地域を)あらかじめ排除することは困難だ」と述べ、地理的制約を撤廃する立場を強調した。なお、政府・与党は「安全保障法制」と呼んできたものを「平和安全法制。略して『平安法』」と呼称を変えている。

 この法案について、中国外務省報道官は「日本が歴史の教訓をくみ平和発展の道を堅持し、ともに暮らすアジア地域の平和と安定、共同の発展のために有益なことを行い、積極的、建設的な役割を果たすよう希望する」(5・14)と述べ、歴史とからめながらも、より抑制的な表現に留めた。だが、同国メディアでは、専門家が「自衛隊の海外軍事行動に過去70年間閉じられていた大きな門を開いた」とも指摘している。また、「安倍政権が改憲を追求し、集団的自衛権を解禁し、このために安保法制の改正を図ることに、日本の民衆は強烈な反対と憂慮を示している」などと、日本国内の反対の動きを伝えている。

 湾岸戦争当時、日本政府は巨額の資金協力を行ったが、自衛隊が実際に行った活動は、停戦後のペルシャ湾への掃海艇派遣のみだった。実はこれは初の自衛隊海外派遣だったのだが、かかる貢献は国際的には評価されなかった。「日本という国はカネがすべてだ」…日本人はかかる風評が「トラウマ」になってしまった。かかる背景の下で今回の閣議決定に到った事態は歓迎してもあまりある! 法案は今国会中に成立されるべきであろう。

 が、本来ならば憲法改正が一番正しい道と考える。ただし現状では困難で、取り敢えずは安全保障政策の基本法の策定が必要だろう。日米防衛協力のガイドラインがあるが、これは防衛協力の具体策だ。2013年12月に作成された国家安全保障戦略と対になるべき「日米同盟戦略」の策定が不可欠である。

 今や日本をめぐる安保環境はかつての冷戦時代のものではない。今やカーネギー国際平和財団のジェームズ・ショフ氏の如く、日本の役割拡大を歓迎するなど、日本に対する世界の期待も大きいのである。日本も腰を据えるべきだ。

(おおた・まさとし)