社会の根幹破壊の懸念 渋谷区同性カップル条例案の波紋(中)

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条例案に対する保守系市民団体の反対集会に、賛成派グループが押し掛け一時騒然となった=10日、東京都渋谷区の渋谷駅ハチ公前広場

 「性的マイノリティーの方々が性的差別に苦しんでいるので、それを解決しなくてはならない」

 6日開かれた渋谷区議会総務区民委員会で、桑原敏武区長は条例案の趣旨をこう説明した。「同性婚」を認めていない憲法との整合性を問う声が出ていることについては「パートナーシップ証明書」に法的拘束力はなく、婚姻制度とは別の制度というのが区側の立場。性的少数者(LGBT)の人権を守る、あるいは差別の解消と言われて、その趣旨に反対する委員はいない。

 条例案は性的少数者に性同一性障害者だけでなく「同性愛者、両性愛者及び無性愛者」も含めているが、こうした人に対する差別の具体例について、区はアパートを借りる際に断られる、あるいはパートナーの入院手続きに家族でないとして立ち会えないなどを挙げている。

 「それなら、具体的に問題になっていることを解決すればいいだけのこと。ところが、性的少数者をあらゆる場面で差別してはいけないとする。差別とは何かというと、法律上の婚姻関係と同じように扱わないことで、それにはペナルティーを科しますというところまで出てきている。夫婦別姓問題もそうだが、小さなところで解決できる問題を大きな問題に仕立て上げ、社会の原則自体を大きく変えようとするのは、左翼運動の常套手段」と、指摘するのは麗澤大学の八木秀次教授。
 民法の家族法は、婚姻制度を設けて、夫婦間に扶助・貞操などを義務付けている。その最大の目的は、生まれてくる子供の身分の安定。従って、
子供の誕生を想定できない同性カップルと夫婦の関係が同等の価値を持つとする条例案は、差別の解消を超えて「日本の家族・婚姻制度を形骸化、あるいはそれらに対する意識を破壊する作用を持っている」(八木教授)とみるべきだろう。
 しかも、その性的少数者に含まれる「両性愛者」や「無性愛者」の概念を理解できる区民や事業者はそう多くはないはず。そうした住民の意識を変えて差別なくそうというのは「啓蒙」の域を超えて、社会の根幹を大きく変えるものと言っていい。

 こうした条例案の危険性と密接に関わる条項は一つや二つではない。その代表は教育への介入だ。第4条3項は「学校教育、生涯学習その他の教育の場において、性的少数者に対する理解」を深めることを謳っていることから、成立すれば、独自の教材を使った過激な教育も可能となる。そうなれば、結婚についての家庭の価値観と学校教育が対立するケースも出てくるだろう。

 第7条3項は、事業者に、男女の別または性的少数者であることによる「一切の差別」を禁じている。条例案はさらに「男女平等と多様性を尊重する社会の推進」のための体制も定めている。区、区民、事業者に厳しい義務を課す一方で、相談窓口と区長に助言を行う「推進会議」を設置し、区長はその意見を聴いて違反者への是正勧告を行う。もし、それに従わなければ、名前などを公表するという。

 「一切の差別」を禁じるとしているのだから、同性カップルの結婚式を拒否した宗教施設が名前を公表されて社会的制裁が科せられる事態も考えられる。総務区民委員会では「事業者の名前の公表は重い」「事業者の義務については非常に厳しい」という懸念が相次いだ。

(「同性婚」問題取材班)