憲法違反、「行政のテロ」の声 渋谷区同性カップル条例案の波紋(上)

東京都渋谷区は同性カップルに「結婚に相当する関係」(パートナーシップ)と認める証明書を発行することを盛り込んだ条例案を3月議会に提出した。「多様性を尊重する社会」を実現するというのが条例案の趣旨というが、「同性婚」容認の第一歩になるとして、強い反発も出ている。区を超えて広がる波紋を追った。
(「同性婚」問題取材班)

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議会で審議中の条例案への反対を訴えるため、渋谷区役所前に集まった市民団体のメンバー=10日、渋谷区
宇田川町

 「議会に何の報告もない。これでは、行政の議会へのテロではないか」

 今月6日、条例案を初めて審査した区議会総務区民委員会。区議会最大会派の自民党幹事長・木村正義委員は「テロ」という、過激な言葉を使って怒りを露(あら)わにした。

 渋谷区が条例案を3月区議会に提出すると発表したのは先月12日。ところが、その前に内容が漏れ、同日朝に報道されていた。委員会に事前説明がなかったことから、本来なら審議打ち切りのケースとの声も出るほどだった。

 区総務課長は昨年7月に有識者や弁護士ら8人からなる検討会を設置し、9回にわたり調査・検討を重ねてきたことを説明した上で、「ご報告することができなく、申し訳なかった」と低姿勢。しかし、委員会に対する検討会の詳しい内容の説明が遅れたことは、議会軽視と受け取られても仕方がない。

 条例案の正式名称は「渋谷区男女平等及び多様性を尊重する社会を推進する条例」。男女と性的少数者(LGBT)の人権尊重、区、区民、事業者の責務を規定。その上で、「推進会議」を設置して施策を進めるとともに、禁止事項や相談窓口を設け、違反行為に対する勧告に従わない場合は、関係者の名前などを公表する、と〝制裁〟規定も設けている。

 木村委員はさらに次のように指摘して同条例案に疑問を呈した。「これだけ複雑な条例を制定するなら、しっかり議会に報告してコンセンサスを得るのが通例ではないか。ましてや全国初となるもので、憲法94条を知らないのか」。憲法94条は、条例の制定を「法律の範囲内」と規定する。

 この条例案で、まず問題となるのは、憲法や民法との整合性だ。法学者で麗澤大学の八木秀次教授は、次のように解説する。

 「そもそも日本の憲法でも民法でも同性婚は認められていない。条例案では、(パートナーシップは)法律上の結婚とは捉えていないというかもしれないが、明らかに同性婚に準ずるものと位置づけようというもの。仮に同性婚、あるいはそれに準ずる人間関係を認めるとすれば一自治体のテーマではない。国民的な議論をすべきもの。憲法94条は、条例の制定は法律の範囲内と明確に言っている。条例制定権としては逸脱しており憲法違反。憲法訴訟になったら、必ず負けるようなテーマだ」

 憲法24条は「婚姻は、両性の合意のみに基づいて成立」と規定する。94条と合わせると、区の条例案は二重の憲法違反ということになる。

 区側は、委員会に対する事前説明が遅くなったのは予算編成と重なったからだとしたが、同性カップルを法律上の「夫婦」と同じに扱うという憲法違反の疑いのある条例案に、強い反発が起きるのを恐れたからではないか。