施政方針と「自由民主」 農協改革を看板に打ち出す

統一地方選に影響も

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自民党の農協改革に関するプロジェクトチームの会合であいさつする吉川貴盛座長(右端)。左端はJA全中の万歳章会長=1月22日、東京・永田町の同党本部

 安倍晋三首相が「改革断行国会」と称する通常国会が開幕した。自民党の機関紙「自由民主」(2・24)は、「『戦後以来の大改革』を断行」「農政、電力分野の『岩盤』を打破」の見出しで、首相の施政方針演説を扱っている。自民党はアベノミクス第3の矢・成長戦略のための規制改革、その看板として「農政」「電力」分野の改革を選んで重点的に打ち出した。

 3面には「農協改革の骨格を了承」の報告が載り、「農政」分野の「岩盤規制」打破の内容に触れた形だ。ただ、2月9日の同党農協改革等法案検討PT、農林水産戦略調査会、農林部会の合同会議が了承したポイントを箇条書きにする官報的な記事で、その前段階の農林族から異論が出た党内議論、全国農業共同組合中央会(JA全中)と対峙(たいじ)した交渉には触れていない。地方で農政批判のあるところ、当たり障りのない要旨記事だ。

 これを共産党機関紙「しんぶん赤旗」などは批判的に取り上げ、「一点共闘」の好機と捉えている。自民党は伝統的に地方・農村部を金城湯池とし、JA組織票は固い保守基盤だった。しかし、農産物自由化の波はとどまることなく押し寄せてくる。1986年のガット・ウルグアイラウンド(多角的貿易交渉)に始まり、世界貿易機関(WTO)交渉、目下、大詰めを迎えようとしている環太平洋連携協定(TPP)交渉などの場で、常に農産物の関税障壁の撤廃が議論になっている。

 そのたびに地方で農政批判が起こり、各選挙で造反票が動いて番狂わせな結果が出た。1月11日に行われた佐賀県知事選挙でも自民、公明の与党が推薦した樋渡啓祐氏をJAなどの支援を受けた山口祥義氏が破り当選した。今春の統一地方選にも影響が出ると予想されるが、安倍政権の農協改革の意思は固く、施政方針の内容になった。

 これまで、JA組織票を受けた政治家が国内農業を守るために関税を守ろうと抵抗してきたが、関税による農産物の聖域も徐々に縮小されていく趨勢(すうせい)は避けられない。ならば、自由化を逆手にとって農産物の付加価値や生産性を上げて国際競争力を付け、輸出に打って出る戦略が必要で、よりコストの安い農業資材の調達や農産品の販売など流通が自由にならなければならない。

 ところが、JAは独占禁止法の適用が除外されている中で、金融、保険、医療・福祉など事業を肥大化。同事業を支えていく利ザヤを稼ぐため高い農業資材を農家に売り、高い農産物を一般消費者に売り、外国の安い農産物には票を投じた政治家を通して高い関税をかける構造があったが、その限界も指摘されてきた。

 今回の農協改革では5年後のJA全中の社団法人化、監査権撤廃などが柱で、各都道府県および地域の農協の自由度を上げるものだ。ただ、この組織改革が農業現場に従事する生産者の所得の上昇を保障するものではない。効率的で質の高い農産物の生産性向上に繋(つな)げる努力が必要だが、地域ごとの特性もあり「改革断行」の実際は、長い時間を必要とするものだ。

解説室長 窪田 伸雄