加速する米軍のリベラル化 新兵募集で「同性婚アニメ」

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戦闘能力より多様性重視

 バイデン米政権下で米軍のリベラル化が一段と顕著になっている。急速な軍拡を続ける中国への対応が何より求められる中で、米軍が戦力強化につながらないリベラルなアジェンダを優先的に推し進めていることは、日本にとっても気掛かりな傾向だ。
(編集委員・早川俊行)

 「まるでディズニーのプリンセス映画だ」――。米陸軍が先月初めに公開した新兵募集動画に、こんな批判の声が相次いでいる。

【同性愛カップルに育てられた女性伍長をアニメで描いた米陸軍の新兵募集動画】

 陸軍は実際の現役兵士が入隊するまでの経緯を描いた短いアニメ動画を5本作成したが、波紋を広げているのが地上配備型迎撃ミサイル・パトリオット部隊に所属する女性伍長を紹介した動画だ。

 動画は伍長が「2人の母親」、つまり同性愛者の女性カップルに育てられたというエピソードから始まり、幼少期に同性婚の合法化を求めるデモ活動に参加したことや、2人の母親が最終的に結婚式を挙げたことを好意的に取り上げている。

 動画投稿サイト「ユーチューブ」のコメント欄には批判が殺到し、陸軍は同欄をオフにすることを余儀なくされた。1日時点で、動画を「高く評価」した人は6000人余りにとどまる一方、「低く評価」した人は15万人を超える。

 多様な背景を持つ人材を募集することを意図して作成された動画だが、逆に保守的な若者を遠ざける可能性が高い。また、米軍の優先課題は戦闘能力ではなく多様性の拡大だという印象を与えていることも、反発を招く要因となっている。

 共和党のテッド・クルーズ上院議員は、ロシア軍のプロモーション映像と比較する動画をリツイートした上で、リベラル勢力は米軍を「女々しい軍隊に変えようとしている」と非難。ロシア軍の動画は筋肉隆々の男たちが過酷な訓練や任務に当たる姿を描いており、これと比べると米軍は軟弱な組織に見えてしまう。

 米軍がバイデン政権下で精強さを失いつつあるとの議論はこれまでも出ており、FOXニュースの人気司会者タッカー・カールソン氏は3月、米軍が妊婦用フライトスーツを採用したことなどを取り上げ、「中国軍は世界最大の海軍を築いてより男らしくなっているのに、米軍は女らしくなっている」と批判。米軍幹部が同氏の発言に激しく反発したことから、逆にこの問題が注目される結果となった。

 一方、リベラル化が進む米軍では、保守的な考えを表明した者は排除される事例が相次いでいる。

 米国では最近、「批判的人種理論(CRT)」と呼ばれる過激な反人種差別理論が学校や企業、政府機関の教育プログラムとして浸透しているが、これが米軍でも広がっていることを批判したマシュー・ローマイアー宇宙軍中佐が解任された。

 ローマイアー中佐は、CRTをマルクス主義に基づく理論だと断じるとともに、国家を守るべき兵士たちに反米思想が植え付けられていると告発し、大きな衝撃を与えた。

 1月6日の議会乱入事件の逮捕者に現役海兵隊らがいたことを受け、ロイド・オースティン国防長官は過激主義を米軍内から一掃する方針を打ち出しているが、これが保守的な考えを持つ兵士を危険視する風潮につながっている。

 バイデン大統領は就任直後の1月25日に、心と体の性が一致しないトランスジェンダーの米軍入隊や軍務を認める大統領令に署名した。陸軍でチャプレン(軍専属の聖職者)を16年務めるアンドリュー・カルバート少佐が個人のフェイスブックで反対意見を表明したところ、陸軍の調査で違法な差別行為と判断され、除隊処分の危機に直面している。