揺らぐ大学の価値、学生に「反米」を植え付け

米国の分断 第3部 「自虐主義」の源流 (5)

 「娘とは政治の話ができないのよ。口論になってしまうから」。ワシントン郊外に住む主婦のMさんは嘆いた。日本出身で米国籍を取得しているMさんは、米国人の夫とともに共和党支持者。一人っ子の娘は保守的な家庭環境で育ったが、ニューヨークにある名門大学のロースクールに進学してからリベラルな価値観に染まり、Mさん夫婦がトランプ大統領を支持していることに強く反発している。

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2016年3月、ニューヨーク市立大学シティカレッジの卒業式に出席した卒業生たち(UPI)

 弁護士になった娘は大手法律事務所で働き、経済的には裕福だ。だが、親と同居していた時は通っていた教会にも行かなくなり、「大学に行かせて良かったのか分からない」とMさん。周りにも同じように大学で子供の価値観が変わったことに思い悩む家庭が少なくないという。

 教育問題に取り組む非営利組織「全米学識者協会」のピーター・ウッド会長は、「新たな形の反米主義をつくり出したのは、米国の高等教育機関だ」と指摘する。ウッド氏によると、大学は以前から過激な反米左翼の「隠れ家」だったが、「かつてなら破壊分子と呼ばれるような人々が、今は人文・社会科学系の教職員や学長の大半を占めている」という。

 ギャラップ社が7月に発表した世論調査結果では、米国民であることを「大変誇りに思う」人は47%にとどまり、同社調査では初めて過半数を割った。特に大卒者に限ると、その割合は39%に低下し、高学歴者ほど愛国心が薄い実態が浮き彫りになった。

 これについて、保守系ニュースサイト「ワシントン・エギザミナー」は、「米国の誕生は祝うに値しないと教えられたら、生徒はどうして米国民であることを誇りに思うのか」と、米国の価値観を軽蔑する大学教育がもたらした必然の結果だと指摘した。

 「大学を閉鎖すべきだ」。大学教育の価値に疑問が高まる中、こんな過激な主張が大学関係者から飛び出した。ジェイソン・ヒル・デポール大学教授は、政治専門紙「ザ・ヒル」への寄稿で、「米国にとって最大の内なる脅威は不法移民ではなく、若者に米国を憎むように教えている左翼の教授たちだ」と断じ、「(左翼の)プロパガンダマシンと化した教育システムに国民の税金を投じるべきではない」と訴えた。

 ヒル氏は大学で政治思想を教えているが、学生たちはジョン・スチュアート・ミルやジョン・ロックといった哲学者を白人至上主義者と見なし、彼らの著作を読むのを拒むという。「教育における地獄のどん底だ」と、ヒル氏は嘆いた。

 『愛国者のアメリカ史』の著者ラリー・シュワイカート元デイトン大学教授も、ヒル氏の主張に同意する。「奴隷について教えようと思えば、まずなぜ奴隷制度が存在したのか、また奴隷貿易に関わったアフリカの指導者や世界最大の奴隷貿易社会だったイスラム圏についても議論する必要があるが、今の風潮ではこうした議論はできない」。言論の自由のない大学に嫌気が差したシュワイカート氏は、定年を待たず早期退職の道を選んだ。

 「20万㌦(の学費)を払って子供を米国を憎むように養成し、ゾンビのような学問を教えて就職できないようにしている」。トランプ氏は2016年大統領選で大学教育の現状をこう批判したが、この指摘は核心を突いている。

(編集委員・早川俊行)