トルコ、サウジの信用失墜画策か
波紋呼ぶサウジ人記者失踪事件
サウジアラビア政府への批判を続けてきた同国のジャーナリスト、ジャマル・カショギ氏(59)がトルコ最大の商業都市イスタンブールのサウジ総領事館で消息を絶った事件は、国内外に大きな波紋を呼んでいる。同氏は全世界のイスラム化を標榜(ひょうぼう)するイスラム主義組織「ムスリム同胞団」支持だったことから、同胞団に寛容なトルコと同胞団に厳しいサウジの両国を含む中東、欧米諸国を巻き込む外交問題にも発展しかねない。
(カイロ・鈴木眞吉)
エジプトは殺害に否定的
同事件は、カショギ氏が2日、結婚に必要な書類を求めて総領事館を訪問したが、館外で待っていた婚約者の前に姿を現さなかったことから発覚した。トルコ当局はカショギ氏が館内で殺害されたとみる一方、サウジ側は一貫して、「彼は同館を立ち去った」と主張、見解は真っ向から対立した。
トルコ側はさらに、以下の三つの「事実」を明らかにし、殺害説を補強した。その一つは、カショギ氏が総領事館を訪問した日に、サウジ国籍を持つ15人が、プライベートジェット機2機に分乗してトルコ入りしたこと。15人の画像も公開された。
第2は、トルコ政府は、カショギ氏殺害を証明する音声と映像記録を入手していると明言、殺害のみならず、遺体をのこぎりで切断したとまで主張。
第3は、カショギ氏が総領事館入りした約2時間後、黒い車両が総領事館を出発、監視カメラには複数の箱が積み込まれる様子が映っているとし、さらに同グループはその後、トルコを出国したと主張したことだ。
それに対し、中東の大国で、ムスリム同胞団を、創設当初から把握し続けてきたエジプトは、今回の事件をどのように見詰めているのか。
同国タンタ大学の元教授が匿名を条件に語ったところによると、カショギ氏失踪が報道された当初は、エジプトの政府、マスコミは一貫してカショギ氏は殺害されていないと主張していた。
第4は、カショギ氏の婚約者はトルコ人で、しかも同国の情報機関に勤務している女性であること。彼女は、トルコ政府の操り人形となり得る可能性があり、トルコ政府にとって都合のいい証言をする可能性が大であるということ。
トルコのエルドアン大統領は、各国の憲法・法律にイスラム法を適用させることを通じて全世界のイスラム化を達成しようとしている同胞団の世界的組織の支援者とみられていることから、エジプトは、同大統領は、同胞団の台頭を警戒するサウジの信用失墜を図る上でまたとないチャンスを得たと捉え、最大の効果を挙げようと躍起になっているとみている。
エジプトはさらに、トランプ米政権の今回の同事件への関わり方について、「この事件を利用し、サウジから大量の金を巻き上げようと考えている」と指摘。トランプ大統領の本音は、サウジに対し、「金を出せ、そうすれば守ってあげよう」ということだと述べた。
謀略や駆け引きが横行する中東政治の現場では、それぞれの主張が隠された意図の下に進行、何が真実かは把握が難しいとした上で同元教授は、民主化運動「アラブの春」発生後、同胞団を支持したオバマ米前政権の「決定的失政」を見直し、その轍(てつ)を踏まないよう、トランプ政権は、同胞団にあくまでも厳しく対応し、中東各国への慎重な対応が望まれると強調した。オバマ氏の同胞団支持は、エジプトをして一時的とはいえ同胞団政権を成立せしめてイスラム化を招来させ、リビアとシリアでは同胞団を含む一部のイスラム主義組織を支援したことにより内戦を招来、中東全域を不安定化させたからだ。その責任はあまりにも重大だ。