台湾との関係強化に動く米
中国の露骨な圧力に対抗
米国が台湾との関係強化に動いている。米国はこれまで、台湾に関して中国を刺激する行動を極力控えてきたが、中国の露骨な外交的、軍事的圧力で台湾海峡の安定が脅かされており、中国配慮より台湾支援を優先すべきとの機運が生まれている。
(編集委員・早川俊行、写真も)
戦闘機の売却も検討か
台北市内にある台湾外交部(外務省)の庁舎。1階ロビーには中華民国旗とともに他国の国旗が並んでいる。台湾と外交関係を結ぶ国々の国旗だ。だが、その数は2016年の蔡英文・民進党政権の発足以来、22から17に減った。中国の外交攻勢により、中国と国交を結び、台湾と断交する国が相次いでいるためだ。
蔡政権を国際的に孤立させる中国の動きに対し、トランプ米政権は踏み込んだ措置を取った。台湾と断交したカリブ海の島国ドミニカ共和国、中米のエルサルバドル、パナマの3カ国に駐在する大使や臨時代理大使を召還したのだ。台湾を外交的に支援するだけでなく、米国の「裏庭」である中南米で中国が影響力を拡大している状況に歯止めを掛ける狙いもある。
米国では今年3月、米台高官の相互訪問を促進する「台湾旅行法」が成立。米議会の上下両院が全会一致で可決したことが、米国内で強まる台湾重視の潮流を物語る。
蔡総統は8月に中南米歴訪で米国を経由した際、ヒューストンの航空宇宙局(NASA)ジョンソン宇宙センターを訪問したが、現職の総統が米政府機関を訪れたのは1979年の断交以来初めて。米政府の厚遇は台湾旅行法を反映したものとみられる。
また米台関係強化の象徴ともいえるのが、米国の対台湾窓口機関、米国在台協会(AIT)台北事務所(米大使館に相当)の新庁舎だ。台北の中心街から離れた地区に総額2億5500万㌦(約290億円)を投じて造られた豪華な建物は、新たな米台関係の到来を予感させる。
米紙ワシントン・ポストの元北京支局長ジョン・ポンフレット氏が7月に同紙に執筆した論評によると、オバマ前政権では、台湾は海空軍よりも海岸線で中国の大規模上陸作戦を困難にする小規模戦力の強化に力を入れるべきであり、台湾への戦闘機売却や潜水艦建造支援は不要だとするウィリアム・マレー米海軍大学教授の主張が採用されていた。だが、トランプ政権は、米企業に対し台湾が進める潜水艦建造計画に関する商談を許可したほか、戦闘機売却を真剣に検討するなど方針転換が図られているという。
米議会でも、共和党上院幹部が台湾への最新鋭ステルス戦闘機F35の売却を主張。8月に成立した2019会計年度国防権限法にも、台湾との軍事交流、共同軍事演習の拡大や兵器売却の推進が盛り込まれた。
トランプ政権が最近発表した台湾への武器売却は、F16戦闘機やC130輸送機の交換・修理用部品など約3億3000万㌦(約370億円)相当と小規模のものにとどまった。また、AIT新庁舎の警護に海兵隊員を駐在させる計画を見送るなど、中国を過度に刺激することは避けていることがうかがえる。
それでも、親中派のキャリア外交官、スーザン・ソーントン国務次官補代行(東アジア・太平洋担当)が7月末で退職。ジョン・ボルトン大統領補佐官(国家安全保障担当)ら親台派の発言力は強まるとみられ、台湾との関係強化の流れはさらに進む可能性が高い。