甦るマルクスの亡霊、ミスリードするメディア
この2年間で新会員を一気に増やし、影響力を拡大させている左翼政治団体「アメリカ民主社会主義者」(DSA)。そのオレゴン州ポートランド支部で共同議長を務める女性が今月初め、ツイッターにこんな書き込みをした。
「DSA支部の共同議長として、はっきりさせたいことがある。共産主義は素晴らしい、ということだ」
他の支部の議長たちからも、この意見に賛同する書き込みが相次いだ。左翼団体とはいえ、多くの若者を惹(ひ)き付けている組織で、共産主義が堂々と称賛されている事実は、米国内で容共的な風潮が広がっていることを物語るものだ。
こうした風潮は、メディアの論調にも表れている。
「誕生日おめでとう、カール・マルクス。あなたは正しかった!」――。ニューヨーク・タイムズ紙(電子版)は4月、マルクス生誕200年に合わせ、こんなたちの悪いジョークのようなタイトルの論文を掲載した。全世界で推定1億人以上に死をもたらした共産主義思想の生みの親を称(たた)えたことに、保守派からは「パロディーでは済まされない」(保守系サイト「フェデラリスト」)との声が上がった。
この論文は、韓国・慶熙大学のジェイソン・ベイカー准教授が執筆したものだが、注目に値する指摘もしている。黒人の反警察運動「ブラック・ライブズ・マター(黒人の命は大切)」(BLM)や女性のセクハラ告発運動「ミー・トゥー」など、全米を揺るがした社会運動について論じた以下の部分だ。
「このような運動は、マルクスのように、支配階級の思想を打倒することが真の革命的進歩に欠かせないことを理解している」。つまり、BLMやミー・トゥーは、マルクス主義を源流とした左翼運動であることを認めているのである。
同紙は昨年も、1917年のロシア革命から100年に合わせ、レーニンは環境保護に熱心な「エコ戦士」だったとか、共産主義体制下の女性たちは性生活を満喫していた、などと主張する論文を掲載し、保守派の反発を買った。
10代の少女向けのファッション誌「ティーンヴォーグ」(電子版)も5月、マルクス生誕200年の記事を掲載したが、マルクス主義を教える高校教師らに資本主義を批判させる一方で、共産主義がもたらした災禍についての記述は一切無し。マルクス主義が現代の米国にいかにも有益であるかのように若い読者をミスリードする内容だ。
これについて、保守系シンクタンク、ハドソン研究所のアーサー・ハーマン上級研究員は、米メディアに掲載された論評で「グロテスクな共産主義プロパガンダ記事」と非難する一方で、こうした記事が掲載されたことについて、「米国は冷戦に勝利し、海外での共産主義の伝染を止めたが、その感染は今、米国内で広がり、根を下ろしている」と、強い危機感を示した。
ハーマン氏は、米国内が共産主義との思想戦の主戦場になっている現在の状況を「新冷戦」と表現した。だが、次世代を担う若者や大学、メディアの間で容共的な風潮が広がる中で、この思想戦に勝利するのは簡単なことではない。
(編集委員・早川俊行)