警察は黒人の脅威か、放置される「不都合な真実」

米国の分断 第2部 反米・容共の風潮 (3)

 黒人が警官に射殺された事件をきっかけに全米に吹き荒れた反警察運動「ブラック・ライブズ・マター(黒人の命は大切)」(BLM)。この運動により、人種的偏見を持つ白人警官が罪なき黒人を次々に殺している、そんな印象が広まり、人種間の対立を深刻化させた。ナショナル・フットボールリーグ(NFL)のスター選手が国歌斉唱時に「片膝抗議」を始めたのも、こうした流れからだ。

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2015年11月25日、シカゴで行われた警察に対する抗議デモで警官(左)をにらみつける黒人青年(UPI)

 BLM運動を生み出す発端となったのが、2014年にミズーリ州ファーガソンで18歳の黒人青年が白人警官に射殺された事件だ。青年は降伏していたのに背中から撃たれた、などの噂(うわさ)が広がり、暴動に発展した。だが、青年はコンビニエンスストアで強盗を働いた後、警官を殴り、銃を奪おうとしたため、射殺されたのが真相である。

 BLM運動はそもそも事実誤認から始まったことになる。だが、この運動がそれ以上に問題なのは、警察だけを一方的に糾弾し、黒人社会にとってより深刻な課題から目を背けさせてしまっていることだ。深刻な課題とは何か。それは圧倒的に高い黒人の犯罪率だ。

 連邦捜査局(FBI)がまとめた2016年の犯罪統計によると、逮捕された殺人犯9374人のうち黒人は4935人で52・6%を占めた。米人口に占める黒人の割合は、約13%にすぎないにもかかわらずだ。

 犯罪の被害者が最も多いのも黒人だ。16年に殺された黒人は、前年より800人以上多い7881人に達した。BLM運動の活動家たちは、警察を黒人の脅威だと非難するが、黒人を殺害した犯人の9割が黒人であり、黒人にとって本当の脅威は黒人自身の暴力であるのが現実だ。

 BLM運動の影響で、警官は躊躇(ちゅうちょ)なく黒人に発砲するイメージが広まったが、ワシントン州立大学のロイス・ジェームズ助教授らの調査では、警官が凶器を持たない容疑者に発砲する確率は、黒人よりも白人に対しての方が3倍高いという。容疑者が黒人の場合、発砲までに時間がかかることも分かっており、警官は黒人を撃って社会的批判を浴びることを恐れ、発砲を躊躇してしまうようだ。

 ワシントン・ポスト紙のデータベースによると、16年に警官に殺害された黒人は233人に上る。ただ、そのほとんどは銃を持っていたり、暴力で抵抗したケースで、凶器を持っていないのに殺害されたのは16人にとどまる。

 逆に、15年に警官が黒人男性に殺害された数は、凶器を持たない黒人男性が警官に殺害された数より18・5倍も多かった。

 15、16年は全米各地で凶悪犯罪が急増したが、これはBLM運動によって警察を軽蔑・敵視する風潮が強まったことで現場の警官が萎縮し、積極的な取り締まりをしなくなったことが大きな要因と言われている。皮肉にも、治安悪化の影響を最も受けたのは、危険な地域に住む黒人貧困層だ。

 警官の過剰対応で黒人が不当に殺害される事件が軽視されるべきではない。だが、「被害者」としての立場を強調するあまり、黒人の高い犯罪率という「不都合な真実」(ヘザー・マクドナルド・マンハッタン研究所研究員)が見過ごされ、これを是正しようとする動きが黒人社会の中から出てこないことは悲劇である。

(編集委員・早川俊行)