被害者意識を超えて、黒人の成功物語に焦点を
「私は今も昔もラディカル(急進論者)だ」。米バージニア州にあるジョージ・メイソン大学の研究室で本紙のインタビューに応じた黒人のウォルター・ウィリアムズ特別教授は、笑いながらこう語った。身長が2㍍近くあるためか、とても82歳には見えない。
本連載第1部で、ジョージ・ワシントンやトーマス・ジェファソンら米建国の父たちが奴隷所有者だったことを理由に断罪されている現状を報告したが、黒人が奴隷として扱われた歴史は、米社会に深い分断をもたらす根源になっている。この敏感な問題をどう捉えるか。ウィリアムズ氏に尋ねると、自らをラディカルと称した通り、刺激的な答えが返ってきた。
「奴隷は人類歴史を通してごく当たり前の制度だった。スレイブ(奴隷)の語源がスラブであるように、スラブ人は奴隷として扱われた。奴隷制度を廃止するために戦ったのが英国をはじめとする西側世界だ。米国も奴隷制度を終わらせるために南北戦争で甚大な犠牲を払った。米国の建国者たちを攻撃するのは、事実に対する無知の表れだ」
ウィリアムズ氏は若い頃、徴兵された陸軍で黒人差別に激しく抵抗するなど血気盛んだった。軍法会議にかけられたことがあるほか、駐留先の韓国からケネディ大統領に政府や軍にはびこる人種差別を告発する書簡を送るなど、「常にトラブルメーカーだった」という。
また、公民権運動では、非暴力を主張したマーティン・ルーサー・キング牧師よりも対決路線を取るマルコムXに共鳴し、差別撤廃には暴力の行使もやむを得ないと考える正真正銘のラディカルだった。
だが、大学で経済学を学ぶ中で、自由市場こそが人種間の不平等を是正する原動力であると考えるようになり、リベラルな考えを捨て、小さな政府を志向する保守派の経済学者となる。言論活動でも、白人には語れない黒人社会の問題をストレートに指摘し、脚光を浴びてきた。
ナショナル・フットボールリーグ(NFL)で国歌斉唱時に「片膝抗議」を続けたエリック・リード選手は、「この国には長年はびこる構造的抑圧」が存在すると主張するなど、黒人は今なお人種差別の被害者であるとの見方が強い。だが、ウィリアムズ氏は「ナンセンスな主張だ」と切り捨てる。
「米国の黒人社会を一つの国家と仮定した場合、2008年の統計でその国内総生産(GDP)は世界18位に相当する。1865年に南北戦争で黒人奴隷が解放された時、1世紀余りで黒人の地位がここまで向上するとは誰が想像したか。このような進展は、米国だからこそ可能だった」
3歳の時に父親が家族を捨てたため、母子家庭で育ったウィリアムズ氏。フィラデルフィアの低所得者向け公営住宅で暮らした幼少期は「極めて貧しかった」という。「何もなかった私のような人間が今、米国で上位5%に入る収入を得ている。この事実は米国の偉大さを示すものだ」
黒人は現在、スポーツ界や芸能界、政界などさまざまな分野で活躍する。被害者意識よりも逆境を乗り越え成し遂げた成功に焦点を当てるべきだと強調するウィリアムズ氏。被害者意識を植え付けるのは左翼勢力の戦略だとして、黒人社会にこう呼び掛ける。
「黒人にとって何より重要なのは、左翼の反米アジェンダのツールとして利用されるのを止めることだ」
(編集委員・早川俊行、写真も)