左翼政治団体の躍進、社会主義に惹かれる若者
2016年の米大統領選以降、急速に勢力を拡大している政治団体がある。「アメリカ民主社会主義者」(DSA)という米国の社会主義化を目指す左翼団体だ。米メディアによると、5000人程度だった会員数は、トランプ大統領の当選を境に急増し、今では4万人を突破。全米最大の社会主義団体となった。
注目すべきは、新会員の多くが2000年以降に社会人になった「ミレニアル世代」と呼ばれる若者たちであることだ。DSAは冷戦時代の1982年に設立されたベテラン中心の組織だったが、ミレニアル世代の流入で「平均年齢が64歳から30歳に下がった」(シカゴ・トリビューン紙)とされる。
今や米国の社会主義運動の先頭に立つのは若者であり、「社会主義者のベビーブーム」(同紙)とも呼べる状況が生まれている。
米国では伝統的に社会主義をタブー視する風潮が強い。にもかかわらず、若者たちはなぜ社会主義に惹(ひ)き付けられるのか。
まず冷戦時代を経験していない世代は、社会主義・共産主義にほとんどネガティブな印象がない。むしろ雇用や医療保険制度に対する不安や、大学の学費支払いで借金を抱える若者たちにとっては、政府による雇用保証や国民皆保険、大学無償化など社会主義勢力が訴える政策が魅力的に映るのだ。
11月の中間選挙に向け、社会主義に惹き付けられる若者のエネルギーを強く印象付けたのは、6月にニューヨーク州で行われた連邦下院選の民主党予備選だ。DSAのメンバーである28歳の女性新人候補アレキサンドリア・オカシオ=コーテズ氏が、若者を中心とした草の根選挙運動で大物現職議員を破るという番狂わせを起こした。トム・ペレス民主党全国委員長が同氏を「党の将来を象徴している」と評するなど、党幹部もその勢いを認めている。
予備選翌日にはDSAへの入会希望者が急増。その数、通常の日の35倍以上となる1152人に達した。
5月に行われたペンシルベニア州議会選の民主党予備選でも、DSAが公認した4人の女性候補が全員当選し、「社会主義は連勝街道に乗っている」(米誌ネーション)との声が上がるほど。実際、昨年以降、DSAが推す候補者の当選率は高く、支援を求める民主党候補が増えている。
2016年大統領選の民主党候補指名争いでは、冷戦時代にソ連に新婚旅行に行った筋金入りの社会主義者であるバーニー・サンダース上院議員が若者の熱烈な支持を集めて旋風を起こした。リベラルなオバマ前大統領時代から若者の左傾化は進んでおり、その潮流は一段と加速しているように見える。
「私は社会主義者として出馬している。私は極左候補だ」。ミレニアル世代のDSAメンバーで、テキサス州ハリス郡の刑事裁判所判事選に立候補しているフランクリン・バイナム氏は、ニューヨーク・タイムズ紙にこう明言した。公職を目指す者が社会主義者であると公言するのは異例であり、若者の価値観の変化を印象付けた。
中間選挙では民主党が議席を増やすとみられているが、トランプ氏は赤がシンボルカラーの共和党の勝利を予想し、「赤い津波」が起きると主張している。だが、実際に起きるのは、社会主義者の躍進というもう一つの赤い津波かもしれない。
(編集委員・早川俊行)