左翼勢力の狙い、打倒の「本丸」は建国の理念
米国の左翼勢力による歴史的人物の像などを撤去する運動が、南北戦争の南軍指導者だけでなく、ジョージ・ワシントン初代大統領や独立宣言を起草したトーマス・ジェファソン第3代大統領ら「建国の父」たちにまで標的が拡大していることは、これまで報告してきた通りだ。「人種差別反対」がこの運動の大義だが、本当に目的はそれだけなのか。
黒人の保守派論客、ウォルター・ウィリアムズ・ジョージ・メイソン大学特別教授は、次のような見方を示す。
「米国の左翼運動は、なぜ建国者たちを攻撃するのか。建国者たちの権威を失墜させれば、建国の理念の権威を失墜させる彼らの計略に大きく役立つからだ」
左翼勢力が打倒を目指す「本丸」は、ワシントンやジェファソンらの像自体ではなく、彼らが掲げた建国の理念だというのだ。
ウィリアムズ氏は「小さな政府」こそ最も重要な建国の理念だとした上で、「ワシントン、ジェファソン、ジェームズ・マディソン(第4代大統領)らを、奴隷を所有したろくでなしの人種差別主義者だと思い込ませることができれば、彼らの理念を打倒することも容易になる」と指摘する。
政府の役割を肥大化させる「大きな政府」の実現など米社会の左傾化を目指す勢力にとって、建国の理念は障害にほかならない。建国の父たちを人種差別主義者と攻撃する背後に、米国が邪悪な人々の理念に基づいて建国されたという「自虐史観」を国民に植え付け、左翼勢力が望む方向に国家を誘導しようとする思惑があることを見落としてはならない。
一方、若い世代の歴史に対する基本的な知識の欠如も、この動きを助長している。ウィスコンシン大学で2年前、先住民の学生グループが学内に第16代大統領アブラハム・リンカーンの像があることを非難した。この時、グループの幹部は「リンカーンは偉大な奴隷解放者と思われているが、実際は奴隷所有者だった」との主張を繰り広げた。
これについて、保守系ニュースサイト「デーリー・シグナル」のエディター、ジャレット・ステップマン氏は「リンカーンが奴隷を所有したことはない。学生たちはそれも知らずに像の撤去を要求した」と、歴史を勉強せずに過激な行動に走る若者の傾向を嘆いた。
21世紀の価値観で歴史上の人物を断罪する風潮は、米社会に何をもたらすのか。ステップマン氏は言う。
「米国は異なる背景を持った人々が世界中から集まった多民族国家だ。これを一つにまとめるには、国民を結び付けるものが必要だが、それが歴史であり、建国の理念だ。この国を建国した人々を否定すれば、国民のアイデンティティーは失われ、バラバラになってしまう」
歴史的人物の像などを撤去すれば、社会の調和を促進するどころか、逆に分断を深めるというのが、ステップマン氏の見方だ。
ジョン・フォンテ米ハドソン研究所上級研究員によると、左翼勢力の目標は、米国を「共通のアイデンティティーを持った国家から多文化主義へと変えること」だという。左翼勢力は「歴史戦」を通じ、米建国の理念を否定し、意図的に社会の分断を試みているとみるべきかもしれない。
(編集委員・早川俊行)
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