際限なく広がる標的、全大統領の像が消える?
「今週はロバート・E・リーだ。来週はジョージ・ワシントンか。その次の週はトーマス・ジェファソンか。本当に自問せずにはいられない。これはいつ終わるのかと」
トランプ米大統領は昨年8月、南北戦争の南軍司令官ロバート・E・リー将軍の像撤去をめぐり、バージニア州シャーロッツビルで死傷者を出す事件が発生した3日後に、ニューヨークのトランプタワーでこんな発言をした。
各地で広がる像などの撤去を求める動きが、リー将軍ら南軍指導者にとどまらず、歴代大統領にまで対象が拡大している状況に苦言を呈したものだ。リー将軍をワシントンらと同列視したことにリベラルメディアは噛(か)みついたが、一般国民が抱いている懸念を率直に代弁したものといえる。
トランプ氏はツイッターに「美しい像や記念碑が撤去され、この偉大な国の歴史や文化がズタズタにされるのを見るのは悲しい」「歴史は変えられないが、そこから学ぶことはできる」とも書き込んでいる。
実際、左翼勢力が公共の場からその存在を消し去ろうとする標的は、トランプ氏が言う通り、際限なく広がっている。
カリフォルニア州のアーケータ市議会は今年2月、第25代大統領ウィリアム・マッキンリーの像を撤去することを決定した。奴隷を所有した大統領はワシントンやジェファソンら12人いるが、マッキンリーはその中の一人ではない。それどころか、南北戦争で北軍の志願兵として奴隷制度撤廃のために戦い、また大統領任期中、多くの黒人を連邦政府のポストに起用した経歴の持ち主だ。
だが、ワシントン・タイムズ紙によると、マッキンリーを批判する活動家たちは「インディアンへのひどい扱いと領土拡張政策」を、像を撤去すべき根拠に挙げている。
また、東部の名門大学で構成する「アイビーリーグ」の一つ、プリンストン大学は2年前に、食堂の壁に貼られていた第28代大統領ウッドロー・ウィルソンの大きな写真を学生の抗議を受けて撤去した。大統領になる前に学長を務めたウィルソンは、同大学のシンボル的存在ともいえるが、「人種隔離政策の断固たる支持者」(ワシントン・ポスト紙)だったために糾弾されている。
こうした今の風潮に従えば、過ちを何一つ犯したことのない完全無欠な大統領以外、公共の場に像などを展示することは許されないことになってしまう。保守系ニュースサイト「ワシントン・フリー・ビーコン」は、ワシントンからオバマ前大統領まですべての大統領の経歴を調べたところ、「像撤去の理由となる、現代の感覚に反する罪を犯したことのない大統領は一人もいない」との結論に達したという。
左翼勢力は像や記念碑の撤去だけでなく、問題視する人物の名前を冠した通りや建物の名称変更も要求している。トランプ氏は「いつ終わるのか」と疑問を呈したが、リー将軍像の撤去やコロンブスデーの名称変更で成功を収める左翼勢力がこの運動を止める気配はない。
(編集委員・早川俊行)






