米新政権の東アジア外交姿勢

元統幕議長 杉山 蕃

クアッド連携強め対中圧力
新たな防衛戦略が必要な日本

杉山 蕃

元統幕議長 杉山 蕃

 3月16日から19日にかけて、米国務長官ブリンケン氏は、東アジア3カ国と外交首脳会談を行い、新政権の外交姿勢を明確にした。日・韓とは2プラス2の形で、中国とは外交首脳同士の形で行われた。

 日米では、共に強固な同盟を目指すとし、尖閣については従来通り、安保条約の適用を保証することが確認された。会談後の共同文書で、中国を名指しで「既存の国際秩序と合致しない行動」「海警法の一方的制定」に重大な懸念を表明する等毅然(きぜん)たる態度を取ることとなった。

米中会談で強気の中国

 アンカレッジで行われた米中外交首脳会談は、冒頭マスコミを意識した派手な非難戦が展開され、興味ある展開が期待されたが、会談後の記者会見では、あらかじめ準備していたような「妥当」な発言で終了した。

 中国代表たる楊政治局員は、若くから外交官として主流を歩み、駐米大使、外交部長を経験したエリートであるが、性格的にも強いものがあり、党内抗争の厳しい中国で外交トップを務める強靭(きょうじん)性を持っていることが察せられる。今回の中国の強気な振る舞いの背景は種々あるが、大きく3点に分けて考えたい。

 第1は、コロナ禍を乗り越えて成長を続ける中国経済の力を誇示し、既に米国スタンダードの時代ではないことをアピールする絶好の機会と捉えたことにあると考えている。特に楊政治局員の「米国は上から目線で中国を見る資格はない」とした発言は中国の国民感情を大いに舞い上がらせたものと受け止めている。

 第2の視点は軍事力就中(なかんずく)海軍力の急速な拡充を果たしつつある現状を踏まえたものであろう。米議会公聴会で米海軍高官が公言した通り、中国海軍は戦闘艦艇の隻数で米国を上回り、さらに拡張を続けている。現に、日米2プラス2で、中国を名指し非難をした我が国に対し、最新鋭1万2000トンの大型駆逐艦(英国は巡洋艦と分類)を日本海に進出させる処置に及んでいる。

 ちなみに今回行動したのは「南昌」で055型と呼ばれる。昨年就役したばかりであるが、既に10隻を超える船体の建造が進んでおり、30隻を就役させる計画という。052型(昆明級、7000トン、50隻建造予定)と並んで中国の水上艦艇の主力である。

 第3点は、ウイグル、香港における人権抑圧非難はもともと覚悟の上、反対に米国の黒人差別問題を槍玉(やりだま)に、米国には非難する資格はないと切り返すことにより、対応可能と考えていたものであろう。

 いずれにせよ、米中外交トップの会談は終わった。「物別れ」と報道は伝えるが、もともと一方が折れる筋合いの会議ではない。双方ともに従来の行き方を変えず対立の構図は一層厳しさを増すということなのであろう。米新政権の東アジア政策という視点で見ると、我が国に関しては「同盟の強化」を再確認し変わるところはない。

 韓国に関しては文政権が末期を迎えているが、「媚中(びちゅう)」の態度を維持する姿勢、休戦中の「朝鮮戦争」終結宣言への動き(終戦は在韓米軍の撤退、韓国軍の有事米韓連合軍指揮官による指揮権の終了につながる)等不満な会談であったろうと推察する。

 今後の方向としてはクアッド(米日印豪)による連携強化により、中国による国際法を無視した行動に圧力を加えていくものと考えられる。

中国が日本領海周回も

 特に我が国は、地勢的配置から最も緊要な位置付けにあるとともに、今回名指しで中国を非難したこともあり、中国の反発、対抗処置は厳しいものが予想される。特に軍事においては、400隻に達しようかという戦闘艦艇が東・南シナ海内にとどまることは考えられず、津軽を含む我が国周辺の国際海峡を使用して、我が国領海を周回する等の威嚇的行動も覚悟せねばなるまい。

 陸自対艦ミサイルの高性能化、海自ヘリコプター搭載護衛艦(DDH)「いずも」の戦闘機運用への改修、空自ステルス戦闘機「F35」の導入ならびに国産新戦闘機開発への動き等、質的充実に見るべきものは有るものの、圧倒的な量的格差は、日米安保を考慮しても、足りない時代に入りつつある。議論を深め新たな時代を乗り切る防衛戦略と防衛力整備の理念構築が必要である。

(すぎやま・しげる)