米国では世代間で国家観に隔たり

 米非営利組織「共産主義犠牲者追悼財団」は、米国民に社会主義・共産主義への見解を尋ねる世論調査を行っているが、昨年9月に実施した調査では、以下のような興味深い質問を設けた。

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 「米国の独立宣言と共産党宣言、どちらが自由・平等をより保証した文書か」

 1776年に採択された独立宣言は「すべての人間は生まれながらにして平等」と明記し、米国の自由・民主主義を支える建国の理念となってきた。これに対し、1848年にマルクスとエンゲルスによって書かれた「共産党宣言」は、世界各地で残虐な共産主義体制を生み出し、推定1億人以上に死をもたらした。

 どちらが自由・平等を保証する文書なのかは自明であり、74歳以上の「サイレント・ジェネレーション(沈黙の世代)」と呼ばれる反共意識の強い高齢者たちは、94%が独立宣言と答えた。共産党宣言と答えたのは1%にすぎなかった。

 ところが、2000年以降に社会人になった23~38歳の「ミレニアル世代」になると、数字が大きく異なる。独立宣言と回答したのは57%にとどまる一方、共産党宣言と答えた人が19%もいた。共産主義に好感を抱く割合も36%に達した。米国では世代間で国家観、歴史観に大きな隔たりがあることが分かる。

 その背後にあるのは、反米自虐史観に基づく歴史教育の浸透だ。米国の過去を否定的に捉える若者が増えた結果、米大陸を発見したコロンブスや独立宣言を起草したジェファソン第3代大統領ら歴史的偉人を人種差別主義者と見なし、彼らの像や記念碑などを破壊、落書きするといった事例が相次いでいる。

 「米国の若者たちが米国の歴史への理解を失うにつれ、彼らは次第に社会主義を支持するようになった」

 米国の歴史戦の実態を描いた著作があるジャレット・ステップマン氏は、保守系ニュースサイトでこう指摘した。

 若い世代の間で社会主義を支持する傾向が強まっているが、その根底にあるのは歴史観の変化だという。米国を悪い国と捉えるからこそ、建国の理念と対極に位置する社会主義・共産主義が魅力的に見えてくるというのである。

 この状況は大統領選にも大きな影響を与えている。前述の世論調査によると、ミレニアル世代の実に70%が、選挙で社会主義者の候補に投票する可能性が「極めて高い」「やや高い」と回答したのだ。

 野党・民主党の大統領候補指名争いで、急進左派のバーニー・サンダース、エリザベス・ウォーレン両上院議員が先頭集団に入っているのも、各候補が社会主義色の濃い政策を競い合うように訴えているのも、若い世代の意識の変化を反映したものだ。前々回の大統領選までは、民主社会主義者を自称するサンダース氏のような人物が有力候補になることは考えられなかった。

 米全体では社会主義への警戒感が根強くあり、急進左派が民主党候補になれば、党内の穏健派や無党派を遠ざけ、共和党のトランプ大統領を有利にするとみられる。

 ただ、ミレニアル世代が間もなく米人口で最大の世代層となる見通しであることを考えると、社会主義への抵抗感はさらに薄れ、民主党の左傾化も続く可能性が高い。

 世代交代に伴う反共意識の低下によって、米政治が変質しつつあることは、気掛かりな潮流である。

(編集委員・早川俊行)