民主「労働者離れ」防げるか
米首都ワシントン近郊から車で西に約4時間。アパラチア山脈を越えた先にウェストバージニア州北中部の町、フェアモントがある。北方にある鉄鋼都市、ピッツバーグ(ペンシルベニア州)に続く川に沿って昔ながらの建物が並ぶ人口約1万9千人の町だ。
ウェストバージニア州は2016年大統領選で、トランプ氏が68%の得票率で圧勝するなど、近年、共和党色が強まっている「赤い州」の一つ。しかし、伝統的に民主党の基盤も決して弱くはない。
実際、昨年末にこの町を取材すると、民主党支持者にも多く出会った。
「はっきり言って、トランプは史上最悪の大統領だ。この州でこんなことを言うと不興を買うが」。町の地元客が集うコーヒー店で話を聞いたローカル紙の元記者のパトリック・マーティンさん(63)もその一人だ。パトリックさんは、トランプ氏については「自分の感情すらコントロールできていない。大統領職の品位を貶(おとし)めている」と顔をしかめる。
こうした反トランプ派は、同州が共和党に傾く現状をどう見るのか。
「この州が保守的なのは昔からだ。それでも以前は保守的な立場を取る民主党候補にも票を投じてきた」とパトリックさんは語る。しかし近年、民主党離れが顕著だという。「特にヒラリー・クリントンは、大企業との関係を重視し、労働者層を無視した。それでトランプへと票が流れてしまった」と残念がった。
前回大統領選でクリントン候補は環境政策に絡んで「石炭企業をつぶす」と失言。同州に多い炭鉱労働者の反発を招いた。これに対し、トランプ氏は同州での演説で、炭鉱用のヘルメットを被(かぶ)り、シャベルで石炭をすくい上げるジェスチャーを行い、労働者の心をつかんだ。それが大差での勝利を呼び込んだ。
ただ、トランプ氏の就任後、実際に経済が好転した実感は薄いという。パトリックさんは「蓄えのある一部の人が株価上昇で利益を受けているだけ。石炭産業にしてもほんの少し回復した程度だ」と素っ気なく語る。
ハンバーガー店でコーヒーを手に談笑していた男性4人組に話を聞いてみた。
「父はかつて炭坑夫だった。しかし、今は地球温暖化の方が心配だ」。大学教授でコンピューター・サイエンスが専門のジェームズさん(77)は環境対策のためには石炭産業の衰退はやむを得ないと考えている。石炭火力などを推進するためにオバマ政権時代の環境規制撤廃を進めるトランプ氏に反対だ。
ジェームズさんは「ネバー・トランパー(反トランプ派)」を自称する民主党支持者で、16年大統領選ではクリントン氏に投票した。選挙結果については、「既存政治家にうんざりしていたこの州の人たちがこぞってトランプに投票した。ひどい間違いを犯したものだ」と苦々しい表情で振り返る。
ジェームズさんが納税記録を公開しないトランプ氏を非難している時、「その必要はない」と色をなして反発したのが斜め向かいに座っていた元石工のガイ・ラウジーさん(91)。「彼は国の問題を正そうとしているだけだ。民主党がそれを妨害している」と言い切った。
近年、こうした白人労働者層が多く住む地域で、共和党支持の傾向が強まっている。民主党候補がその流れに歯止めをかけられるかも次期大統領選のカギを握る。
(ウェストバージニア州フェアモント・山崎洋介)






