ハイブリッド地政学と外交の時代、韓国は多重的圧力に直面も
「私は金正日委員長に米軍が韓半島に駐留するのは単純に北朝鮮に対抗するだけでなく、統一された以後にも米軍が駐留することが重要だと話した」
金大中元大統領は2000年11月、リー・クアンユー元シンガポール首相と会談し、5カ月前に平壌で会った金正日総書記との対話を紹介した。
「韓半島は地政学的に米日中露4大国に囲まれた唯一の国で、日清・日露2回の戦争に巻き込まれた後、結局は日本に併合された。だから韓半島が統一されても米軍があって、勢力均衡を維持することが韓半島の安定だけでなく東アジア全体の安定にも緊要だと話した」
すると金総書記は「大統領はもしかしたら私と同じ考えを持っているのではないか」として、「ロシアと中国、日本など大国を牽制(けんせい)するためには米軍がなければならない」と語ったと、金元大統領は伝えた。
勢力均衡瓦解(がかい)に対する金元大統領の長年の憂慮のとおり、冷戦で影が薄くなっていた地政学が社会主義崩壊後、再び復活してきている。しかも科学技術の発達と情報化などにより競争が一層熾烈(しれつ)になり、戦略的な方程式もまた複雑となる、いわゆる“ハイブリッド地政学”に拡張する様相だ。
問題はハイブリッド地政学の傾向が今年、韓半島を中心に一層強まる展望であることだ。具体的に中国は米国と全方位的に戦略競争を行いながら、自身の求心力の中に周辺国を引き込もうとするなど、ハイブリッド地政学そのままである。
脱冷戦以後、影響力が縮小したロシアもトルコなどと手を握って中東の核心行為者に浮上する一方、中国の戦略的パートナーの席を占めた。半面、米国はトランプ大統領の登場後、インド・太平洋戦略を推進しつつも二国間主義を駆使しており、欧州連合(EU)もプレグジッド(英国の離脱)によって求心力が弱まる兆しだ。
峨山政策研究院も最近、イシューブリーフ『2020新地政学』で「ハイブリッド地政学の適用領域は一層多角化する可能性が大きい」と観測し、「2020年の韓国は曖昧性の利点を喪失する可能性があり、むしろ多重的圧力に直面する憂慮がより大きくなるだろう」と見通した。
つまり、過去には世界的次元の競争が北東アジアと韓半島に至るのが対立の進み方だったが、今は「韓半島あるいは北東アジアが広域対立を触発する主要原因になり得るのであり、2020年にはその可能性がより一層明確になるだろう」ということだ。
多層的な戦略方程式が必要なハイブリッド地政学時代を韓国はどのように切り抜けるのか。窮極的には国力を育てなければならないが、現実においては、やはり外交が自らの役割を果たさなければならない。本当の“外交の時代”が到来したという言葉が出る所以だ。
(キム・ヨンチュル外交安保部長、1月8日付)
ポイント解説
「対立の震源地」にならないために
韓国は外交的袋小路に入り込んでいる。米中の間で板挟みなのに加え、対日関係は戦後最悪、南北関係も北朝鮮の冷たい拒絶に遭うという状態で、まさに「四面楚歌」だ。
ここで紹介されている「ハイブリット地政学」は従来の地政学に高度情報化・スピード化が加味されたもので、実際の地政学的条件が変わったわけではない。指導者には正確な判断とより迅速な決断・行動が求められるようになったということである。
冒頭に金大中元大統領の話を引用しているのは、要するに米軍が半島からいなくなれば均衡が崩れるということで、これは金正日総書記も同じ認識だったということを紹介したもの。だから、この記事はもし現韓国政権が在韓米軍を撤退させれば、朝鮮半島が「対立の震源地」になるということを回りくどく言っているものだ。今や半島から米軍を追い出そうとしているのは南北合わせても文在寅大統領一人ということを気付かせたいのだろうが、直接的に書けないところに韓国言論界のもどかしさがある。
金大中・金正日両氏は「4大国」として日本を含めて言及している。この頃までは大局を見て判断できる政治家がいた。それに対して、この記事後半では日本は全く出てこない。役割など全くないといったふうだ。在韓米軍の機動に不可欠な日本を抜きに安保も外交もないと思うのだが、日本をことさら無視し矮小(わいしょう)化したいという“情緒”がにじみ出ているのも韓国メディアの特長で、歴史的に日本を過小評価したことが失敗を招いてきたという事実はいつも忘れられる。
(岩崎 哲)