レーニン再評価する露国民

中澤 孝之日本対外文化協会理事 中澤 孝之

大統領の愛国主義反映
スターリンの「弾圧」は批判

 今年は帝政ロシアを打倒したロシア社会主義革命100周年の年である。革命の主役であったウラジーミル・I・レーニン(1870~1924)とその後継者としてソ連邦に君臨したヨシフ・V・スターリン(1878~1953)に対して、脱イデオロギー時代の今日、ロシア国民はどのような見方をしているのか。本邦のメディアはどこも報じないが、本紙読者の参考のために、有力な世論調査機関「レバダ・センター」による最新の世論調査の結果を紹介したい。

 まず、レーニンについて。4月22日の生誕147年記念日に合わせた同月19日発表の調査の第1問「わが国の歴史でレーニンはどのような役割を果たしたと思うか?」の結果。「全く肯定的」18%(2016年3月調査13%)、「やや肯定的」41%(40%)と、肯定的評価が半数を若干超えた。「やや否定的」17%(21%)、「全く否定的」は5%(6%)で、回答困難は23%(20%)であった。レーニンへの好感度は年々増えており、これはプーチン大統領の愛国主義政策と無縁ではあるまい。

 次に、ロシア史におけるレーニンの役割の評価で最も多くの回答者が賛成したのは、「レーニンの記憶は歴史に残るが、彼の道を歩む者はもう誰もいない」が26%(13年1月32%、15年3月31%)。さらに、「レーニンは進歩と公平の道にわが国を導いた」は23%(15%、17%)、「レーニンの思想は後継者たちによって歪められた」21%(20%、21%)、「レーニンは人びとを明るい未来に導くために、彼らの良い考えと期待に立脚しようと努めた」19%(17%、18%)、「レーニンはわが国を誤った道に導いた。そのことが多くの不幸と苦難を招いた」15%(12%、10%)、「レーニンは革命と共産主義に関する期待で間違いを犯した」11%(13%、10%)が上位6項目を占めた。

 3問目の、「40~50年後、この人物についてどのように記憶されると思うか?」との質問に対して、「歴史家以外は彼を思い出さないだろう」が35%(11年4月9%、13年3月31%)と最も多く、次いで「ソビエト国家の創建者として」25%(27%、28%)、「労働者の利益を第一に考えた指導者として」20%(19%、17%)、「将来を正しく見据えた偉大な思想家として」12%(12%、13%)、「自らの意思を巨大国家に押し付けた打算的な政治家として」8%(10%、9%)、「幸運な政治的冒険家として」6%(6%、7%)、「何百万人もの生命を犠牲にしようとした残酷な独裁者として」5%(5%、5%)、「ロシアを理解せず、ロシアが好きでもなかった人物として」3%(3%、2%)の順だ。4問目の「レーニンの死後、わが国で革命は続いた、革命の原則・思想から逸脱した、のどちらと思うか?」との問いに、「逸脱した」が43%(1990年10月調査では65%)、「続いた」は30%(16%)、回答困難27%(19%)であった。

 また、「レバダ・センター」は「スターリンの弾圧」をテーマに調査を実施した(5月23日発表)。スターリンの「弾圧」に関しては、一般的に、大粛清(Great Purge)と呼ばれるが、調査に当たってこの表現は使われていない。特に37~38年をピークに、当時の秘密警察長官ニコライ・エジョフの名を取った「エジョフシチーナ」はスターリン大粛清の代名詞として語り継がれている。世論調査の結果から見て、スターリンの無慈悲な悪政についてはおおむね、比較的正確な知見に基づいていると判断してよいと思われる。

 第1問は「あなたはスターリンの弾圧について知っているか?」で、「主な出来事について知っている」が44%(2012年8月47%)、「多少知っている」22%(25%)、「実際、何も知らない」20%(12%)で、「多くを詳細に知っている」はわずか13%(13%)という結果だった。

 第2問は「スターリンの弾圧に関する次の意見に、あなたはどちらかと言えば賛成するか?」で、「これは政治的な犯罪で、正当化できない」が一番多く39%(12年10月51%、16年3月45%)、次いで「政治的に必要であった。歴史的に正当化できる」25%(22%、28%)、「この弾圧について何も知らない」13%(6%、8%)、回答困難16%(13%、15%)、回答拒否7%(8%、7%)であった。

 第3問「スターリン時代に主に弾圧を被ったのは誰だと思うか?」に対して「審問なしで、政権の恣意(しい)により、あるいは妬(ねた)みの密告により(弾圧を受けた)全ての人」45%(11年4月48%、12年8月45%)、「ソビエト政権にあからさま、あるいは隠れて反抗した人たち」19%(11%、10%)、「最も有能で、権威ある人びと」14%(23%、25%)、「ソビエト政権の最も忠実な支持者たち」7%(8%、8%)、回答困難16%(10%、12%)などとなっている。

(なかざわ・たかゆき)