「ソ連消滅」悲しむロシア人

中澤 孝之日本対外文化協会理事 中澤 孝之

「貧しさ、無秩序」恥じる
世論調査に見る国民の本音

 共産党支配のソ連時代と今のロシアと大きく違う点は、イデオロギーにとらわれない世論調査が複数の調査機関で実施され、その結果が国民の思考傾向を判断する材料になる。日本のメディアでは報じられない有力な世論調査機関「レバダ・センター」の最近の世論調査の結果を紹介したい。

 まず、3月1日発表の「誇りと恥」についての今年1月下旬調査。かっこ内は2015年6月調査の数字である。「わが国の歴史におけるどのような出来事、現象に誇りを感じますか?」という設問に対して、トップは「1941~45年の大祖国戦争での勝利」が83%(85%)だった。次いで「クリミアのロシア連邦復帰」43%(―)、以下「宇宙開発における先進的役割」41%(42%)、「偉大なロシア文学」36%(37%)、「世界の工業大国の一つになったソ連時代」35%(36%)、「ロシアの科学分野での業績」32%(30%)、「ロシア製兵器の名声」26%(25%)、「ロシア人の道徳的特質―素朴、忍耐、不屈さ」23%(27%)、「偉大なロシアの旅行家たち、開拓者たち」19%(21%)、「プーチン政権下での国内情勢の安定、経済成長」18%(20%)、「モンゴル・タタールのくびきとの戦い、東方からの侵略に対するヨーロッパ防衛」14%(13%)、「ロシア流民、自由愛好の精神」10%(12%)といったところが2桁台で、後は「先進的体制、ソビエトの非階級社会」「ロシアの神父たちの献身的行為」「ロシア・インテリゲンチアの道徳的権威」「ぺレストロイカ、市場改革の嚆矢(こうし)」などの順となっている。

 次に、「20世紀のロシアの歴史を振り返ってみて、恥ずかしい感情、残念さを催したものは何ですか?」との設問に「偉大な民族、豊かな国の一方で、永遠の貧しさと無秩序の中で住むこと」54%(56%)がトップ。以下、「ソ連解体」33%(28%)、「粗野な性格、下劣さ、互いに敬意を払わないこと」24%(31%)、「1920年代から50年代にかけての弾圧、テロ、民族移動」22%(25%)、「西側と比べた慢性的な後進性」20%(20%)、「結局、ぺレストロイカの形を取ったこと」18%(17%)、「われわれの緩慢さ、不活発さ、怠惰」14%(20%)などの順であった。

 ところで、2番目の設問の回答のうち「ソ連解体」を悔やんでいる回答の推移を見ると、99年4月調査が48%、2003年6月調査41%、08年4月調査38%、12年9月調査32%、そして15年6月調査が28%と、年々少なくなっていたが、昨年12月が「ソ連解体25周年」を迎えた節目だったせいか、1月調査で5ポイント増えた。

 同じレバダ・センターは今年1月9日に「ソ連解体」に関する昨年11月調査の結果を発表した。第一の設問「ソ連崩壊の主な原因は何だと思いますか?」に対する回答では「エリツィン、クラフチュクとシュシケビッチの無責任で非合法的ベロベーシの“陰謀”」が29%でトップだった。

 改めて解説するまでもないが、ロシア、ウクライナ、ベラルーシという3共和国首脳(大統領)が少数の側近とともに、1991年12月7、8日にベラルーシのポーランド国境に近い「ベロベーシの森」の政府別荘で密談し、ソ連国民はもちろん、ソ連大統領ミハイル・ゴルバチョフはじめ他の共和国首脳にも事前に知らせることなく、突如、ソ連の消滅を宣言したのであった。既に独立していたバルト3国の住民を除くソ連国籍の人々は、一夜明けて目を覚ましたら、自分の国がなくなっていたというわけだ。

 2014年11月調査(30%)、11年11月調査(20%)、07年11月調査(25%)、06年12月調査(32%)のいずれでも、トップであった。以下、「ソ連に敵対した諸外国の陰謀」が23%、「ソ連指導者ゴルバチョフとその同僚に対する国民の不満」21%、「軍事費の重荷で停滞と窮乏を招いた経済」14%、「共和国エリートたちの野望」13%、「共産主義イデオロギーの完全な枯渇」13%、「モスクワに対する共和国の不満」12%、「ぺレストロイカの間に指導部の役割を放棄し、モスクワを弱めたソ連共産党中央委員会」12%、「国の技術的、経済的疲弊」12%、「モスクワの不適切な民族政策、力による民族問題解決の試み」10%の順。

 2番目に、「ソ連消滅を悲しんでいますか?」との問いに、「はい」が56%、「いいえ」28%、「回答困難」16%という回答結果。1992年5月以降、各年あるいは隔年の合計20回の調査でも、「はい」が「いいえ」の倍前後という傾向はほとんど変わっていない。

 3番目の設問(「悲しい」と思う回答者への)「どの点で後悔していますか?」では、「単一経済システムの崩壊」53%、「大国に所属する国民の喪失感」43%、「相互不信と残忍さの増大」31%、「ソ連のどこでもくつろげた感情の喪失感」30%、「友人、親戚のつながりの断絶」28%、「自由な旅行、休暇がより難しくなった」15%。また、「ソ連の消滅は不可避だったか、避けられたと信じますか?」の設問に、51%が「避けられた」と答え、「不可避」の回答は29%、回答困難は20%だった。

(なかざわ・たかゆき)