韓国はTHAAD配備是認を
進路選択迫る大統領選
非難されるべき中国の干渉
韓国への高高度防衛ミサイル(THAAD)の搬入が進んでいるようである。インターネットでは、米軍輸送機による在韓米空軍基地へのTHAAD到着の模様が動画で紹介されている。当初6月配備とされていたが、情勢の緊迫から早期搬入に踏み切ったものとみられる。米軍司令官の談として、4月には実戦配備するようであり、中国の反発と露骨な韓国への抑圧、韓国大統領候補者の配備に慎重な発言、そして例年通り実施されている米韓合同演習とこれに対応する北朝鮮のミサイル関連の示威活動等目の離せぬ状況である。関連して所信を紹介したい。
前回述べたごとくTHAADは、来襲する敵弾道弾を、大気圏突入前後の高高度で迎撃する防御的兵器であり、他国を攻撃し被害を与える筋合いのものでは無い。従って隣国がとやかく言うものでは無く、中国の強硬な反発は、一国の防衛装備に干渉せんとする横暴な主張である。THAADのセンサーが中国上空に及ぶといった中国側のクレームであるが、ミサイル・ディフェンス(MD)システムは、衛星を含む多種のセンサーにより構築されており、軍事常識的に見ても言い掛かりにすぎない。それでは中国の意図は、どこにあるのだろうか。
それは、中国が一帯一路を旗印とした西方への膨張、南シナ海問題に見る南方への膨張と並んで、韓半島への勢力拡大にあると見ている。韓国は周知の通り、大統領弾劾という混乱のさなかにあり、頼みの経済もサムスンの減速、癒着問題から、サムスン・LGが韓国全経連からの脱退を余儀なくされる等、苦しい状態にある。その状況を捉え、韓国貿易輸出の26%を占める中国が締め付けを行い、インターネット、メディアを通じて、騒然たる状況を報道し世論の動揺を図っている。韓国にとって強烈なブラフである。
国際的に見て「一国の防御兵器の配備」に対する干渉は極めて異常であり、そのやり方は非難されるべきものであると考えている。ましてや、北朝鮮の度重なるミサイル攻撃の示威活動、韓国防衛にあたる米韓連合軍の置かれた立場を考えると、当然の処置として是認さるべきであり、中国の横暴さが非難されるべきであろう。今回の米国が取った素早い行動は、韓国大統領選までにTHAAD配備を完了するというもので、現政府との協定の下、中国の意表を突き、素早く既成事実を構築したもので、トランプ政権下、有無を言わせぬ強い意志を感ずる。
このような状況下、韓国の取るべき方向は、まずTHAADの配備を是認し、米韓連合軍として、北朝鮮のミサイル開発、弾道弾攻撃能力に確実に対応する体制を確立することであろう。南北が対立する厳しい情勢が続く中、軍事的に十分な体制を確保することは、最も重要な基本姿勢である。その上で、今後の韓国の進路について、国を挙げて議論すべきであろう。その際、キーになるのは、ソウル五輪を契機に急速に国力を伸長し、経済大国の一角を占めるに至った韓国民の努力の成果を再認識することと、今回中国から突き付けられた要求は、「国の防衛という最重要課題に対する隣国の干渉」という国の威厳を損なう行為であるということであろう。
今回の中国の「韓国いじめ」は尋常ではない。THAAD用地を他の土地と交換の形で提供したロッテ系列商店・製品に対する不買、ボイコットをはじめ、「爆買い旅行」の規制、各種通関への規制圧力等そのやり口はすさまじい。わが国もかつて「尖閣」に関連し、同様の経験を受けているが、韓国としては、独立国としての威信に懸け、粘り強く方針を貫くべきで、いったん譲歩すれば、それを前例として次なる譲歩を迫られることが目に見えている。数年前、「嫌米」「米韓連合軍指揮権」の問題から在韓米軍撤退が論ぜられた時の韓国の動揺を振り返る時、冷静に国防という基本を第一義として判断すべきであろう。
今回の大統領選により、韓国は大きな進路選択を迫られるであろうことは想像に難くない。まさに韓国世論を二分し、米国か中国かの選択を迫る正念場を迎えたと見られる。
今年の米韓合同演習の実施に伴う、北朝鮮の対応は予想されていたレベルには達していない。推力増強型の新型エンジンの地上燃焼試験画像を公開、技術的進歩をアピールしたが、3月22日にはロケット撃ち上げに失敗しており、相変わらず初期燃焼の不安定さを露呈した。しかし他方、スカッドERミサイルを4発同時発射し、日本海中部に着弾させ、弾道弾の安定した発射能力を公開した。総合的には着実に弾道弾攻撃能力を高めている様子がうかがえる。
この状況に対し、わが国は、韓国同様一層の迎撃能力の強化が必要とされている。イージス艦搭載のSM3、局地防空のパトリオットPAC3の現体制の強化に加えて、THAADあるいはSM3陸上型の配備、さらに巡航ミサイル対処を視野に中SAM改といった迎撃ミサイルの開発・導入を加速させることが肝要である。THAADの韓国配備と並んでわが国のMD体制を整えることが、北朝鮮のミサイル開発投資がペイしないことを悟らせる確実な方策である。
(すぎやま・しげる)