蜜源抱え田舎より蜜採れる

12年目の銀座ミツバチプロジェクト

NPO銀座ミツバチプロジェクト理事長 田中淳夫氏に聞く

 平成18年3月28日(ミツバチの日)、東京・銀座のビル屋上で養蜂を行うプロジェクトが始まった。都市と自然環境との共生を目指したミツバチプロジェクトは今、銀座を飛び出し、全国100カ所以上、そして海外にも広がっている。NPO銀座ミツバチプロジェクト理事長の田中淳夫さん(紙パルプ会館専務取締役)に、大都会のど真ん中でミツバチを飼うことの意義などについて聞いた。
(聞き手=森田清策・社会部長)

都市と地方結び変化起こす/屋上緑化や農業にも取り組む
全国100カ所以上 海外にも拡大

銀座とミツバチは、意外な組み合わせですね。きっかけは。

田中淳夫氏

 たなか・あつお 昭和32年東京生まれ。1979年、(株)紙パルプ会館入社。現在、友人らと立ち上げたNPO銀座ミツバチプロジェクト理事長、紙パルプ会館専務取締役。

 ハチというと、ゴルフ場で刺される虫くらいに思っていたが、たまたま屋上を探しているという養蜂家に出会った。

 最初は紙パルプ会館の屋上を貸して、銀座産の天然の蜂蜜が採れれば、消費するだけだった銀座の街が生産の現場になる。これは刺激的だなと思い、「貸してもいいよ」と言った。

 だが、養蜂家がやるには狭すぎるので、「教えてやるから学びなさい」となった。「冗談じゃない」と思ったが、みんなに言っちゃった手前、「じゃあやってみようか」と始めた。

屋上での養蜂は田中さんたちが始める前からあった?

 趣味でやっている人がポツポツいた程度だから、僕らが火付け役になった形で、全国的に広まった。

 屋上だけでなく、昨年からは全日空(ANA)と組んで、萩・岩見空港(島根県)の滑走路脇に、巣箱を置いている。「ミツバチもANAも飛ばないと商売できないでしょう。一緒に飛びませんか?」と誘ったら実現してしまった。今は、他の空港でもやりたいと、相談を受けている。この他、ミツバチプロジェクトは全国100カ所以上、そしてソウル、台北などと海外にまで広がっている。

銀座でミツバチを飼うことの意義は。

 緑の少ない都市環境の中で、環境についてのメッセージを発信すること。世界的にミツバチが減っているというが、ミツバチを飼うと、環境がよく見えるようになる。花がなければ生きていけないから、環境指標生物とも呼ばれている。

 一年を通して人が愛でるため、銀座にはいろんな街路樹を植えている。ミツバチが飛ぶ3㌔四方には皇居、日比谷公園、浜離宮等がある。皇居では、天皇陛下のご意思で農薬は使わないと聞いた。それに、霞ケ関にはトチノキ、皇居の内堀通りにはユリノキの街路樹がある。

 うちの屋上には、巣箱が十数箱(1箱に3、4万匹)あるが、大型連休の頃には蜂蜜が100㌔以上採れることがある。巨大な蜜源を抱えているから、畑が多いけれど花の少ない田舎よりも採れるときがある。

地方からも見学に来るそうですね。

 年間1000人くらい見学に来る。先日も徳島県の農家の人たちが視察に来た。ある旅行会社のツアーでは、銀座でミツバチを見るのが一つのコースとなっている。

昨年から首相公邸でもミツバチを飼っているが、そこにも協力している。

 首相夫人の安倍昭恵夫人がうちの屋上にお見えになった。ワシントンを訪問した時、オバマ前大統領のミッシェル夫人がミツバチを飼っているのをご覧になり、首相公邸で飼いたいとおっしゃって、ニホンミツバチを飼っている。

 僕が定期的にお手伝いに伺うが、中庭で作業していると、二・二六事件など、歴代内閣でさまざまなドラマがあった場所でミツバチを飼うというとは「時代が変わったなあ」としみじみ思う。

ミツバチの魅力は。

 桜のシーズンになると、巣の中で女王バチが卵を約2000個生む。そうすると、働きバチは朝から1日何回も密や花粉を集めて育児をして一月ぐらいで死ぬ。短い命だからこそ、次の命のために働かなくてはいけない。1匹では生きられないので、いろんな情報を見ながら、集団で会話しながら生きている。その集団の中にルールがある。

 人間も同じように一人では生きられず、コミュニケーションを取りながら生きている。だから、ミツバチを学ぶことに多くの人が思い入れを持つのだろう。

ミツバチだけでなく、幅広い活動を行っていますね。

 都会の人は、命に接する機会が少なくなっているので、屋上緑化をはじめ教育、福祉、農業、地域づくりなど、さまざまなことにつなげることをしてきた。屋上で農作物を生産して、収穫したものから商品を作る。保育園の園児、クラブのママ、新橋の芸者さんに至るまで、多くの人に農作業を手伝ってもらっている。

 さらに、屋上でサツマイモを育て「銀座芋人(いもじん)」という焼酎を商品化した。屋上でイモを育てる人はみんな“いもじん”で、芋づる式にどんどん仲間が増える。これが僕の“イモジネーション”(笑)。

 この他、安倍夫人と一緒に福島で酒米を育て、それを山口で清酒「精一杯」にするということもやった。銀座でミツバチというと、街のお騒がせ集団がやっていると思われがちだが、銀座も一地域。地域と地域が結び付くことでさまざまな変化を起こすことができるのだ。