戦闘機輸出で露中が駆け引き
自称国産追い続ける中国
コピー警戒も売却決めた露
経済大国中国も、ハイテクの近代兵器には欧米やロシアに及ばない面が多々あるようだ。
ロシアと中国の関係を知る一つの指標として、ロシアから中国への兵器の移転について、空軍の戦闘機を主体に見てみたい。
中国の兵器は、欧米の兵器に比べ10~20年遅れていると言われる。また、ロシアは中国に対する兵器移転に関し、最新鋭ものは提供せず、技術格差を10~15年に維持することを基本としてきた。
ソ連時代から中国は、ロシアの武器を装備していたという歴史、価格が安価であったり、さらに1989年の天安門事件による制裁もあったり、さまざまな理由からロシアに依存してきた。それに、何といってもお家芸のコピー製品をものにするには、ロシアの兵器はあまり高度ではなく、それでいてそう低くもないという格好の技術水準だったのかもしれない。
だが、ロシア自身は、「国家安全保障戦略」において戦略環境をしっかり捉え、戦略構想を定め、自己の科学技術水準に応じた兵器と部隊運用を策定している。技術面でロシアが一段低いとみられがちだが、宇宙飛行士の若田光一氏は、ロシアの宇宙技術を「長年の経験に基づいた、極めて洗練されたもの」と語っている。
中国は、ロシアの兵器は第一義的にロシア人のためというソフト面をあまり考慮せず、性能などハード面を重視して取得し、国産(模倣)しているやにみえる。
中国は、1990年代後半から、近代兵器を逐次ロシアから購入している。例えば、キロ級通常型潜水艦4隻、対艦巡航ミサイルSSN22装備のソブレメンヌイ級ミサイル駆逐艦4隻、SU27多用途戦闘機224機(内ライセンス生産200機)、SU30多用途戦闘機97機などである。
SU27は、米空軍のF15への対抗機である。中国は、92年からSU27戦闘機を輸入し始め、95年末に200機のSU27SK(Kは中国の意味)をJ11という呼称でライセンス生産する契約を結び、98年12月、最初のライセンス生産機(ロシアから引き渡されたコンポーネント、つまり部品を組み立てたもの)が初飛行した。ところが、約半数をライセンス生産した2004年に、中国は突然コンポーネントを購入しなくなり、ライセンス生産の契約は破棄状態になった。中国の言い分は、コピーでなく、中国の技術力向上による自前の戦闘機生産が可能となったからである、と。
これを裏付けるのは、02年、中国は、SU27に似たJ11B戦闘機の試験飛行を実施、04年に試作機が試験機関・部隊においてテスト飛行を行い、07年頃から部隊配備を始めた。つまり、SU27についてまとめると、ロシアから直輸入機のSU27SK、同機のライセンス生産のJ11A、それに自称国産機J11Bの3種類がある。
この場合、ライセンス生産といっても、重要コンポーネントはロシアから供給されるものである。そのコンポーネントを中国が国産化できたとしても、その国産機が同性能とはいかない。同じ性能にするには重要コンポーネントがロシア製の水準に達していなければならない。それができないならば、ロシアからの輸入に依存せざるを得ない。
例えば、ロシア製丸形可変ノズルのついたAL31Fエンジンである。中国が開発したWS10エンジンでは性能はもちろん、耐久性、信頼性、稼働率などいろいろな問題がある。中国人パイロットは、WS10エンジンを搭載したJ11Bには飛行時の異常振動のため乗りたがらないという。J11用に、他の用途と偽ってロシアのメーカーからAL31系エンジン123基を購入している。ただ、この数字では、J11全機を満たすことはできない。
SU27の派生機の多用途戦闘機SU30MKKを2000年以降100機購入した。これはインド向けのSU30MKI(Iはインドの意味)より性能が劣る。この機種に限らず、インドに対する優遇はロシアの一般的姿勢である。
SU30MKの発展型の「第4世代+α」の多用途戦闘機SU35の購入を、中国が11年にロシアに打診してきた。だが、当時コピー問題でロシアは不信感を持っており、ロシア経済を支える原油価格も高値で推移していたことから、積極的ではなかった。
中国はこの打診以来輸入交渉を通して、ロシアが行ったSU27からSU35に至る改良経過の把握に努めている。コピーでは、元の技術を超えられないのに、自称国産を追い続けている。中国の思惑は、まず4~7機前後SU35を輸入、技術的評価を行い、その結果を受け輸入機数を増やすという中国らしい提案だった。ロシアは完成品40機以上を主張する。
14年のクリミア併合により、ロシアは西側諸国の経済制裁を受け、さらに原油価格が急激に低下、政治的、経済的に中国に接近する政策を採り始めた。SU35の対中輸出は、プーチン大統領の強い意向が働いた政治的決定である、といわれており、24機売却を決定したようである。
本年1月のタス通信は、SU35Sの中国への引き渡しが10~12月に行われる、と報じた。それが3月には、両国の正式の批准は秋頃で、現物の引き渡しは来年になる、と報じられた。ロシアののらりくらりは、対中警戒派の抵抗なのか。間もなく、実物の中国への登場によって明らかになろう。
(いぬい・いちう)






