人気を保つプーチン大統領
「再選」期待も7割前後
露世論調査が示す国民意識
本邦のメディアはあまり伝えないが、ロシアでは、国民の大まかな思考傾向を知るため、複数の専門調査機関によって頻繁に世論調査が実施されている。クレムリンもその結果を無視できない。ロシアの有力世論調査機関による最新の調査をいくつか紹介する。
第1に、プーチン大統領の支持率、信頼度について「レバダ・センター」の3月末調査結果。①「全体として国は正しい方向に進んでいる」との回答者は51%(2015年3月、14年3月調査では、それぞれ57%、60%)で、「間違った道を進んでいる」は30%、回答困難19%であった。②「大統領としてのプーチンの活動を全体として肯定する」との回答者は82%(15年3月85%、14年3月80%、13年3月63%)と、ウクライナ危機以降、依然として高い。「肯定しない」は17%(それぞれ14%、18%、36%)。ショイグ国防相、ラブロフ外相、メドベージェフ首相ら他の同僚政治家との比較でも倍以上の支持率で、群を抜いている(野党指導者らとは桁違いの差がある)。
同じ「レバダ・センター」の3月前半調査で「プーチン大統領のどこに引かれるか?」との問いに、「経験豊富な政治家」33%、「エネルギッシュで、決断力があり、意志の強いところ」31%、「国家の利益を守る」25%、「外交政策」22%、「先見の明がある政治家」21%、「人びとを導ける真のリーダー」20%、「国の安定を保障する人物」14%といった回答が上位だ。また、「プーチン大統領の嫌いな点」は、「汚職政治家との関わり」17%、「大資本との結び付き」17%、「国民の意思に無関心」11%、「国の指導に取り組まない」6%、「明確な政策の欠如」5%など。政治家の毀誉褒貶は万国共通である。「2年後の大統領選挙でプーチン再選を望む」は65%との結果も出ている。
次に「世論基金(FOM)」の3月末調査で、「次の大統領選挙で誰を選ぶか?」との質問に、プーチン大統領と答えた者は70%だった。ジリノフスキー自民党党首(4%)以下の野党指導者は軒並み一桁台である。第2に、ミハイル・ゴルバチョフ元ソ連大統領(共産党書記長)は3月2日で満85歳を迎えた。ロシアの男性平均寿命(13年統計)が66歳(女性は76・4歳)であり、はるかに長命である。一方、ソ連時代にゴルバチョフ氏の宿敵であったボリス・エリツィン(初代ロシア大統領)は同年代の1931年2月1日生まれだったがアル中気味で、07年4月に76歳で病死した。
「FOM」(2月28日調査)によれば、ゴルバチョフ氏を肯定的に評価した回答者は、わずかに15%で、その理由は、特に「民主主義とグラスノスチ」、「国の新しい方向をもたらしたこと」など。具体的には、「活気のない状態の国を動かした」「ぺレストロイカを生んだ」「言論の自由、行動の自由」を挙げたが、一方で、「彼のせいでソ連邦が崩壊した」38%などの理由で、否定的な全体評価が58%と多数を占めた。年配の回答者の多くがネガティブであるが、若年層は批判されている彼の役割について比較的無関心だと分析者は記述している。
また、全ロシア世論研究センター(WCIOM)の調査(3月1日発表)によると、「(ゴルバチョフ氏は)国のためを考えたが、国を破滅に導く政策的過ちを犯した政治家」46%との評価が最も多く、次いで「悪意と意図的に大国を崩壊させた罪人」24%、「責任を恐れずに、当時できる限りの改革を実行した勇気ある人物」12%といった調査結果が出ている。
さらに「ゴルバチョフは国にとってどのような良いことをしたか?」には「冷戦を終わらせた」6%、「民主的自由をもたらした」5%、「ぺレストロイカを始めた」2%、「反アルコール・キャンペーンを始めた」2%、以下「ソ連崩壊」「アフガニスタンからの撤兵」「企業家として働く可能性をもたらした」「国に秩序、安定をもたらした」「店に食料品が出た」など。「ゴルバチョフは国にとってどのような悪いことをしたか?」の回答トップは「ソ連を崩壊させた」36%で、「国を衰弱させた(経済、軍、社会など)」10%、 「反アルコール・キャンペーンを始めた」5%、「ぺレストロイカを始めた」5%、「西側に国を売った」5%、以下「クーポン(物資配給券)制度を導入した(物不足)」「始めたことを完遂しなかった」「住民の貧困化」「腐敗、犯罪、ギャング(マフィア)」「国内混乱」の順だ。
「レバダ・センター」は3月1日、帝政末期から現在までの歴代指導者のそれぞれの時代に関して興味ある評価調査(2月下旬実施)を掲載している。数字は「どちらかと言えば良い」「どちらかと言えば悪い」「特に関心なし」「回答困難」の順。
①ニコライ2世時代―30%、19%、20%、31%②1917年のロシア革命後数年―19%、48%、11%、22%③スターリン時代―40%、38%、6%、16%④フルシチョフ時代―31%、29%、23%、18%⑤ブレジネフ時代―51%、18%、19%、12%⑥ゴルバチョフ時代―12%、67%、12%、10%⑦エリツィン時代―11%、68%、13%、9%⑧プーチン時代―70%、11%、8%、11%。プーチン時代を除けば、ブレジネフ時代とスターリン時代の評価が比較的高いこと、ゴルバチョフ時代とエリツィン時代の評価傾向はほぼ拮抗している。
(なかざわ・たかゆき)