プーチン大統領の「国民とのテレビ会見」 高支持率を生み出す演出

賃金未払いや道路整備問題など直訴に即対応

 ロシアのプーチン大統領は14日、国民の質問に直接答える恒例のテレビ会見を行った。国際政治から大統領の私生活、賃金未払い問題の解決や道路工事の陳情に至るまで、極めて多様な質問それぞれに、大統領が的確に回答する様子が放映された。入念に準備されたこのテレビ会見は、プーチン大統領の高い支持率を生み出す重要な行事の一つである。
(モスクワ支局)

「庶民の生活に心砕く」強調

 14回目となる今回の「国民とのテレビ会見」でプーチン大統領は、約3時間40分にわたり、国民から発せられた80の質問に回答した。また、放映時間中にSMSや電話、ファクスなどさまざまな手段で質問だけでなく、大統領への要望や意見などが寄せられ、その総数は約300万に達した。

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14日、モスクワで、テレビ特番に出演したプーチン大統領を見るジャーナリストら(AFP=時事)

 ロシアでは、この大掛かりな「国民とのテレビ会見」に類する行事として、連邦議会での年次教書演説が挙げられる。ただ、年次教書演説は、大統領から国民への一方通行の呼び掛けである。そして、議場で大統領の話を聞く議員らは本来の意味での聴衆ではない。彼らは演出の一部を担い、大統領の抑揚に合わせ大きく頷き、必要な時に割れんばかりの拍手を送るのである。

 実は、「国民とのテレビ会見」でも、年次教書演説のような演出は存在するようだ。ロシアのメディア「RBK」によると、メーン会場などで会見に参加する聴衆らは、放送のしばらく前にモスクワ郊外の施設に集められ、選考会に参加させられる。

 主催者は聴衆らに実際に質問をさせ、テレビ会見当日に質問を行う人と、質問することはできない聴衆に分け、さらにそれぞれのグループでリハーサルを行う。質問を行う人らも、自分なりの質問を行う人々と、あらかじめ主催者が用意した質問を行う人々に分けられる。選考会やリハーサルなど一連の行事については、口外を禁じられているという。

 それだけの準備・演出を行うのも、この「国民とのテレビ会見」の最大の目的は、プーチン大統領のイメージアップを図ることにあるからに他ならない。

 このテレビ会見での質疑応答を通じ、プーチン大統領が国民に示したものは、第一に、「頼りがいのある大統領」である。プーチン大統領による国政はすべて計画通りに進んでおり、もし、計画通りに進んでいないとすれば、それは、国内外の「敵」の陰謀によるもの、という理屈である。この陰謀には、例えば国際社会でのロシアの孤立や、経済制裁などが該当する。

 第二は「すべてに精通した大統領」である。プーチン大統領は多岐にわたる質問に対して、的確な回答を示すだけなく、根拠となる統計や数値をそらで語ってみせる。その回答の様子は、見ていて実に感心させられる。

 第三に「庶民の生活に心を砕く大統領」である。市民生活の中でのさまざまな問題や苦情などに、即座に対応してみせている。印象に残ったのは、北方領土・色丹島の水産コンビナートの従業員らが「2015年8月以降給料が支払われていない。何とかしてほしい」と懇願した場面である。

 プーチン大統領は従業員らに同情を示し、すぐに対処すると約束した。そして、この回答から1時間も経たないうちに、水産コンビナートのオーナーに対する捜査が開始された。

 ところで、この従業員らは、給与の支払いを求め検察庁や労働省の窓口に何度も相談したというが、問題はまったく解決されなかった。大統領に直訴するしか解決方法がないとするならば、ロシアの統治体制は深刻な問題を抱えていることになる。

 また、シベリアのオムスク市に住む女性は、市の道路が穴だらけで、ひどい状態だと大統領に訴えた。この女性はこれまでに市の窓口に何度も相談したが、「予算がない」という回答しか得られなかったという。

 プーチン大統領は「道路予算の一部が無駄に使われており、監督を強化する」と回答した。その約20分後、オムスク市の道路予算にまだ余裕があることが分かり、翌日、オムスク市長は会見で、すでに道路整備に着手していると発表した。

 プーチン大統領が国民に示した第四のものは、「国際的な存在感」である。シリア問題や、アルメニアとアゼルバイジャンの交戦、その他さまざまな問題についての回答の中で、ロシアの存在感を示して見せた。

 第五は「大統領の道徳性の高さ」である。オープンで、正直で、無私で、献身的であり、国民と祖国に奉仕する姿を対話を通じて国民に示すことがそれである。

 14回目の今回の「国民とのテレビ会見」で、プーチン大統領はこれら5項目を国民に示し、多くの聴衆を満足させたようだ。プーチン大統領の高い支持率は、しばらくは揺らぎそうにない。