【社説】ウクライナ侵攻 ロシアの戦意くじく説得を
ロシア軍がウクライナ国境近くに集結するなど軍事的緊張の高まりを受け、欧米から強い警告がロシアに発せられている。クリミア半島併合に端を発したロシアによるウクライナ侵攻は今なお続いており、戦意をくじくために力の伴う説得で情勢の悪化を防がなければならない。
NATO東方拡大を警戒
ロシアはウクライナとの国境付近に10万人規模の軍隊を集結させているとみられる。ウクライナ東部のドンバス地方を支配する親露派武装勢力とウクライナ政府軍との紛争に対し、ロシアが軍事介入に踏み切る恐れがある。
紛争は昨年7月に停戦に入ったが、違反する戦闘が頻発し、ロシア軍の集結で緊迫化した。事態を重く見た米国のバイデン大統領はプーチン露大統領と会談し、ロシアがウクライナで軍事行動を取れば強力な制裁措置を取ると警告した。
これに続き、先進7カ国(G7)外相会議も「厳しい代償を払うことになる」と共同声明に盛り込んだ。また、ジョンソン英首相はプーチン氏との電話会談で「重大な結果を招く」と牽制(けんせい)した。
ロシアがウクライナに対して直接的な軍事行動を辞さない構えを見せているのは、北大西洋条約機構(NATO)の東方拡大を脅威と受け止め、被害感情を強めながらウクライナのNATO加盟を恐れているからだ。
露大統領府は、英露首脳会談でプーチン氏がウクライナがNATOと軍事的に「同化」して停戦合意を損なう破壊的政策を行っていると非難し、米露首脳会談ではNATOをウクライナなどに東方拡大しない法的保証を要求したと公表した。しかし最大の問題は、既にロシアがウクライナに侵攻していることだ。この国際法違反の状態のままでは法的保証は困難だ。
ソ連崩壊以来、ウクライナは西部の親欧州派とロシア系住民の多い東部の親露派との間で揺れたが、2014年に親欧州派による反政府デモでソチ冬季五輪直後に親露派政権が崩壊すると、ロシアは軍事力に訴える行動に出た。即座に武力や情報工作を複合したハイブリッド戦争を仕掛け、軍事的要衝のクリミア半島の併合からウクライナ侵攻を開始した。
ロシア側には、NATO東方拡大は1990年のドイツ統一後の旧東ドイツまでという当時のゴルバチョフ・ソ連大統領とブッシュ米大統領との合意が、旧東欧や旧ソ連のバルト3国にまで拡大して破られているとの捉え方がある。だが、状況を変化させたのは欧米ではない。合意したソ連を崩壊させ、ゴルバチョフ氏を失脚させたことだ。
ロシア、ウクライナ、ベラルーシのスラブ系3共和国が先導して、ソ連を構成した各共和国が独立して主権国家になると決めた。にもかかわらず、ロシアがウクライナを内庭のように扱い、主権を侵害することは間違っている。
国際社会は停戦維持を
大規模で効果的な制裁を科すため国際社会は結束し、ロシアに見合わない戦いと思わせて戦意をくじくべきだ。停戦を維持して外交の落としどころを探る説得が必要である。