【上昇気流】一度旅をしたことのある国ならば、その後が気になる


ピラミッド

 一度旅をしたことのある国ならば、2度目がなくても印象は消えず、その後その国はどうなっているのかと気になって仕方がない。エジプトもそんな国の一つだ。

 異質な自然と街の風景、人々の風変わりな生活様式。交通事情を体験すると、事故が頻発するだろうと思われた。小型バスで高速道路を走っている時、運転手は乗客の歌声に誘われて歌いだした。

 突然立ち上がって、片手だけはハンドルを握りつつ、踊り始める。演舞は延々と続いた。また街中の十字路では、車が激しく往来するど真ん中に、男性が荷を満載した大八車を引いて突っ込んで行く。

 新刊の『エジプトの空の下』(飯山陽著、晶文社)を手に取ったのは、今のエジプトを知りたかったから。「エジプトは大規模交通事故も頻発します」と著者は書き、電車の脱線と横転など数々の例を挙げる。

 これはアラビア語通訳者のカイロ滞在記で「アラブの春」の2011年から14年までの出来事が詳述されている。頻繁に遭遇するのは奇妙で危険な事件だ。著者は女性で非イスラム教徒。イスラム法では「下手をすると問答無用で殺される不信仰者」だ。

 近代以前はズィンミー(庇護〈ひご〉民)とされ、その扱いを受けたのがコプト教徒だった。アラブの春が運んできたのは「自由」による彼らへの激しい襲撃と殺戮(さつりく)。13年にイスラム組織ムスリム同胞団出身のモルシ政権が崩壊するまで続いたそうだ。現代の中に古代も中世も同居している。