イラク駐留米軍、戦闘任務終了

年内の完全撤収を要求 親イラン民兵組織

実弾演習に参加し、言葉を交わすイラク駐留米兵=2016年1月、バグダッド南東のバスマヤ基地(AFP時事)

 過激派組織「イスラム国」(IS)に対する軍事作戦でイラクに駐留する米軍主体の有志連合軍の戦闘任務が今月9日までに終了した。有志連合軍は今後もイラクに残り、イラク軍への訓練や助言に当たるとしている。一方、イランが支援するシーア派民兵組織は、有志連合軍の完全撤収を要求しており、年内に撤収させない場合は攻撃すると表明した。
(エルサレム・森田貴裕)

北部でISの攻撃続く

 米国防総省は9日、イラクの駐留米軍がIS掃討作戦の戦闘任務を終了したと発表した。イラクに駐留する米軍部隊約2500人と他の有志連合部隊約1000人は今後もイラクに残り、イラク軍への訓練や助言に当たるとしている。これらの部隊は昨年半ばから既にイラク軍の支援と訓練に任務を移していた。

 バイデン米大統領は7月26日、ホワイトハウスでイラクのカディミ首相と会談し、年末までに有志連合軍のイラクでの戦闘任務を終了することで合意していた。

 2001年9月の米同時多発テロ事件の後、ブッシュ(子)米政権はイラクが大量破壊兵器を保持し、テロを支援していると主張。米軍主体の有志連合軍は03年3月、イラクの首都バグダッドで空爆を開始しイラクに侵攻。4月にフセイン独裁政権は崩壊した。米軍が大量破壊兵器の捜索を行ったが発見には至らず、さらにイラク国内の治安が悪化。フセイン政権時に厚遇を受けていたイスラム教スンニ派と、激しい迫害を受けたシーア派の宗派間抗争による戦闘が各地で続発し、米軍は治安維持のためにイラク駐留を続けた。

 イラクの人口の約6割はシーア派が占める。04年6月には米国主導の連合国暫定当局(CPA)から暫定政府に主権が移譲され、イラクにシーア派政権が誕生した。フセイン政権崩壊後、イラクのシーア派武装勢力への軍事訓練、資金や武器の支援をしてきたイランが、シーア派の盟主として影響力を強めた。

 11年12月、オバマ米政権が米軍をイラクから撤収させ、約9年間に及んだイラク戦争は終結した。しかしその後、イラクとシリアにまたがる地域で活動するスンニ派のISが、イラク北部地域など多くの地域を支配し、自称「カリフ制国家」の樹立を宣言した。米軍は14年、イラク政府の要請を受けてIS掃討のため再びイラク駐留を開始した。ISは17年、駐留米軍やイランから支援を受けるシーア派民兵組織の攻撃によって壊滅状態となった。以降、米軍はISが息を吹き返さないようイラク駐留を続けた。イラク北部では現在もISの攻撃が続いている。今年初めの国連の報告によると、イラクとシリアには国境を挟み約1万人のIS戦闘員が活動しているという。

 米軍は昨年1月、イラクの首都バグダッドで空爆を行い、イラン革命防衛隊の精鋭部隊「コッズ部隊」のソレイマニ司令官とイラクのムハンディス人民動員部隊(PMU)副司令官を殺害。イラク議会はこれを受け、駐留米軍の撤収を求めたが、トランプ前米大統領は、イラクに大きな制裁を科すと警告した。米軍はその後も、シリアやイラクの親イラン民兵組織を標的に空爆を実施した。これによってイラク国内では米軍に対する反発が強まり、米軍の駐留する基地などを狙った親イラン民兵組織によるとみられるロケット弾攻撃やドローン爆弾攻撃が続いた。

 イラク最大のシーア派民兵組織で八つの親イラン民兵組織をまとめるハラカット・アル・ヌジャバは声明で、「米軍が年末に撤収しない場合は、それを占領軍とみなし攻撃する」と述べた。

 イラン司令官らの殺害を受け、親イラン民兵組織は1年以上にわたり米軍主体の有志連合軍基地や輸送部隊を攻撃してきた。イラクの親イラン民兵組織の一つであるアシャブ・アル・カーフは、駐留米軍の戦闘任務終了が発表された数時間後、イラクの2カ所で有志連合軍の輸送部隊を攻撃したと発表した。死傷者は報告されていないが、親イラン民兵組織の警告とみられる。

 有志連合軍の部隊は現在、三つのイラク軍基地に駐留しているが、今後も親イラン民兵組織による攻撃が続く可能性がある。