情報の収集・分析、北の立場で「内在的接近」を 柳氏
どう見る金正恩体制 日韓専門家対談(9)
先入観や願望排する心掛けで 坂井
両氏とも長年、金正恩情報を収集・分析してきた。心掛けてきたことは。
柳東烈 その前に指摘しておきたいのは北朝鮮体制は決して「合理的」とは言えないという点だ。民主主義社会の価値観から見た場合、間違いなく非合理的であり暴圧的だ。だから誤解を生まないように「狡猾(こうかつ)に統治」くらいの表現にすべきだろう。
情報の収集・分析での問題は特に北朝鮮情報においては限界があること。また近年、増加している韓国の脱北者たちからもたらされるソース不明の情報には信憑(しんぴょう)性が低いことも少なくない。さらにそうした脱北者情報にマスコミが飛びついて報道してしまうことも混乱を招く原因となる。
韓国ではどんなに信憑性が低くても一度報道されてしまうと、大統領や長官などがその真偽を尋ねてくる場合があり、政府の担当者たちはその情報の真偽に関する報告書を作成することに時間を割かれてしまう。
北朝鮮情報を入手すると、その信憑性を確かめ、高いと判断した場合はその情報の中身が原因となって引き起こされるであろうあらゆるケースのうち韓国の国益にとって最悪のケースを分析する。なぜなら情報が歪曲(わいきょく)されて上に報告されることがあったからだ。
例えば、金大中・盧武鉉政権時に起きた北朝鮮の武力挑発について、それが金正日総書記の指示であったと把握していたにもかかわらず、次官や長官の段階で「偶発的な挑発」と変更され、大統領に報告されたことがあった。
坂井隆 北朝鮮については、南北分断という厳しい政治情勢の影響もあり、情報も政治性を帯びて結果的に歪曲されがちだ。それにいかに騙(だま)されず、影響されずにクリアな状態で正確に分析するかが問題だ。
ただ、歪曲されているからと言って一切無視はできない。そこには貴重な情報も潜在的に含まれている可能性があるわけだから、すべてを捨ててしまうのはもったいない。どう歪曲されたのか、余計な部分を削ってその情報の元になっている事実関係を復元できないかなどを慎重に見極める必要がある。難しい作業だが。
また特定の価値観、先入観、好き嫌い、「倒れればいい」といった願望などをできる限り排して、冷静・客観的に情報の真偽、有効性を見極め、「事実はどうなのか」ということに焦点を絞って分析することを心掛けている。
柳 北朝鮮情報の分析では韓国をはじめ西側諸国の発想ではなく、北朝鮮の立場に立って考える「内在的接近」が重要だ。情報分析の担当者が金正日氏や金正恩氏になりきって同じような生活を送ることも役立つ。
また同じ政府の情報分析官でも一人は肯定的だったとしても、もう一人はわざと否定的分析をすることが必要だ。例えば、北朝鮮が南北対話を提案してきたとしよう。肯定的分析は「南北間の懸案解決に向け歓迎すべき」だが、否定的分析は「韓国世論の分断工作を仕掛けてきた」と報告する。情報管理者はその両方の報告を聞いて初めてバランス感覚が保てる。私は否定的分析をする「ネガティブチーム」の設置を政府に建議した。今、稼働しているようだ。
(終わり)