側近は正恩氏の信任が全て 坂井氏
香港「自治」の行方 識者に聞く(2)
権力の掌握(中)
妹・与正氏、政権唯一の「実勢」 柳
北朝鮮の独裁体制維持に最も重要な役割を果たしている組織・機関は。またその中心的なメンバーは誰か。
柳 幾つか重要な組織・機関がある。まず党の組織指導部だ。党全体を統括する趙延俊第1副部長がその中心にいる。組織指導部が党中央、党地方、内閣、軍、国家安全保衛部、人民保安省、各機関を監視・監督している。
次に軍だ。直接、武力で金正恩体制を維持している。その中心は軍総政治局(局長:黄炳瑞)で、ここで党の意思に従って軍を指導している。実質的に軍を動かすのが総参謀部と人民武力部だ。
また情報査察機関である国家安全保衛部(部長:金元弘)、軍保衛局(旧保衛司令部、局長:趙慶喆)、人民保安省(相:崔富一)も重要。そして金正恩氏を直接補佐し、その指示事項を下達したり、状況を正恩氏に報告する書記室(室長:金チャンソン)と正恩氏の警護を担当する護衛総局が実質的に正恩氏の方針の下、莫大な権限を行使している。
坂井 北朝鮮の体制は、私の認識では最高指導者を除き、いずれの機関に関してもそれを牽制(けんせい)するような別の機関が存在し、いかなる組織・機関、あるいは個人もオールマイティーたり得ないシステムになっている。いわば、ジャンケンのグー、チョキ、パーのような関係だ。特に武力、資力(金、物資)、人事権が厳しく分離されているのが特徴ではないか。その意味で最も重要な機関は「領導者」であり、それ以外にはあり得ない。
そのような前提で敢(あ)えて言えば、体制維持の観点から重要なのは、やはり党の組織指導部と財政経理部、軍の護衛司令部と総政治局などの機関だろう。これ以外にあまり着目されていないが人民保安省(傘下の内務軍も含め)も無視できない。
韓国で用いられる「実勢」という表現には違和感がある。北朝鮮では最高指導者を除き、誰であれ、その地位・役割は最高指導者との関係、信任や愛顧を基礎とするものであり、何か具体的な自分自身の権力基盤(組織やグループ)に基づくものではないと思う。それを作ろうとすると、正恩氏の義理の叔父だった張成沢氏のように排除される。
その上で、これも敢えて言うなら正恩氏との距離感からすると黄炳瑞・軍総政治局長、崔竜海・党副委員長の両氏が突出している印象を受ける。ただし、体制運営という意味では金永南・最高人民会議常任委員長、朴奉柱首相、金基南・党副委員長兼宣伝扇動部長、崔泰福・党副委員長兼最高人民会議議長ら老世代の役割も無視すべきではないと思う。
正恩氏の肉親である妹の与正氏、兄の正哲氏、また異母兄の正男氏が今後、権力にどのように関わっていくとみるか。
柳 独裁権力者が肉親や親戚と権力を分かち合うことは絶対にない。ただ、妹の与正氏は現在、党宣伝扇動部の副部長として公式職責を持っており、唯一、正恩政権に介入できる「実勢」だ。彼女以外に北朝鮮で本当の「実勢」はいない。黄炳瑞氏、崔竜海氏、金元弘氏など信任を得ている勢力がいるだけだ。彼らは正恩氏の信任がなくなれば命の保証はない。
一部マスコミなどで兄の正哲氏が正恩氏をサポートしていると報じられたが、弟の統治に寄与することなどできないし、寄与すれば命が危ない。報道は信憑(しんぴょう)性が低いとみる。
坂井 与正氏の場合、正恩氏に率直に話ができる唯一の党幹部かもしれない。将来の予測は困難だが、客観的に見れば、何かの部門を任されるというよりは最側近として金正恩氏を補佐した方が寄与度は大きいのではないだろうか。
正哲氏の現状について信頼できる情報はない。金正恩氏の立場からすれば、仮に現在、兄弟間の確執が存在しないとしても、大きな権限を与えるのは潜在的な危険要因をわざわざつくることになるので、権力を覆すような力は持てないような職責を与える程度で遇していくのではないか。
正男氏については、正恩氏にとってはむしろ潜在的危険分子という側面が強く、北朝鮮国内で大きな権限を与えることはあり得ないだろう。