北朝鮮市場経済、富裕化で勤労意欲喚起の効果 坂井氏
どう見る金正恩体制 日韓専門家対談(7)
闇市拡大しても統制に自信 柳
経済に話を移したい。近年の目新しい傾向の一つに首都・平壌の高層ビル建設がある。ここには新興の富裕層が関わっているとの指摘もあるが。
坂井隆 いわゆる富裕層の増加は、2000年代に入って以来、継続的に指摘されてきた。ただし、富裕層が必ずしも新興とは思わない。既存幹部ないしその親族・関係者らが役得を得て富裕化しているケースも少なくないのではないか。
富裕層が最近、特に急激に増加しているのかは分からないが、その存在が近年顕著化し、その結果、従前の生活水準にとどまっている人々との間で格差が生じているのは事実だろう。
ただし、その格差はいわば相対的なものにとどまっており、韓国の表現を借りれば「富益富」(富む者はますます富む)とは言えても「貧益貧」(貧者はますます貧困化する)とまでは言えず、また、「富裕化」の程度も中国などに比較すれば甚だしいものではなく、それが直ちに住民全体の不満を増大させ、さらには体制への反発に転化するかは疑問。むしろ、「物質的刺激」により勤労意欲を喚起する効果もあり、また、そのような現象の副作用が看過できないほど著しくなれば、当局は、引き締めを強めることも十分可能であろうし、これまでもそれを繰り返してきた。
要するにそのような現象が存在していても、それが直ちに体制の動揺につながる可能性は低いと思う。
柳東烈 北朝鮮経済は首領経済(党経済含む)、人民経済、第二経済(軍経済)、チャンマダンと呼ばれる公然の闇市などに区分される。チャンマダンが経済全体に占める割合は金正日時代は10~15%だったのが、金正恩時代になってからは15~20%まで拡大されたとみられている。
金正恩氏が「チャンマダン」拡大を容認したのはこれに対する統制力を確保したためだ。万が一、「チャンマダン」が北朝鮮の社会主義体制の根幹を揺るがすような事態になれば、直ちに閉鎖できるという自信を持っているとみられる。
「チャンマダン」で金儲(もう)けした新興資本家が増加したのは事実であり、彼らが党の承認を得て、もちろん党への賄賂によりだが、平壌の高層マンション建設などにも投資し、それを通して相当な富を蓄積したのも事実だ。ただ、これもまた体制の根幹に関わるような存在だと判断された途端に排除されるだろう。北朝鮮に市場経済的要素が広がっているとしても、金正恩氏はそれを統制できているとみるべきだ。
麻薬の密売やスーパーノート(偽ドル紙幣)の製造・流通など海外での外貨稼ぎも体制を支えていると言われる。
柳 北朝鮮は年間20億~23億㌦程度の外貨稼ぎをしていると推定される。ここには通常の貿易額は含まれない。内訳は朝鮮レストランで働くウエートレスを含む海外労働者の賃金収入が5億㌦、麻薬・偽造紙幣・武器密売・葉巻による収入が5億㌦、観光収入が1億㌦、サイバー賭博の運営や賭博プログラムの開発・販売などサイバー外貨稼ぎが10億㌦など。これらの収入は党39号室に集められ、統治資金となる「首領経済」をなす。
これ以外にも各部署や幹部個人にあらゆる名目の「忠誠資金」を上納させている。