「グアム到達か」前提に議論を 坂井氏

どう見る金正恩体制 日韓専門家対談(4)

核・ミサイル(上)
韓国民に恐怖与え“南々葛藤” 柳

北朝鮮は長距離弾道ミサイルの弾頭部分に小型化した核を搭載し、米本土を攻撃できる能力を備えつつあるとの見方がある。果たしてその技術レベルは。

光明星4号

北朝鮮北西部から地球観測衛星「光明星4号」の打ち上げと称して発射された事実上の長距離弾道ミサイル=2月7日、朝鮮通信配信(AFP=時事)

 坂井隆 技術面の知識・識見を持たずお答えしかねるが、政治・外交的に言えば実際にどこまでできているかということよりも、北朝鮮の国内および関係国内で、それがどのように認識されているかがより重要ではないだろうか。核抑止理論というのはパーセプション(認識)の議論なので、パーセプションが実際にどのくらい完成しているのかと同じくらい重要だ。

 そうした意味では、報道等をベースに、北朝鮮国内では「米本土攻撃可能」との認識が、関係国内では「グアム到達可能か」程度の認識が一般に共有されていることを前提に議論するのが妥当だと思う。

 柳東烈 ご指摘の通り、北朝鮮は技術的にかなり進展させている。米国の見方もそうだ。政治・外交分野における核戦略を見た場合、米・中・日・露の周辺4大国をはじめ国際社会を振り回すことに成功している。北朝鮮は自分が刃物の柄の部分を握り、周辺国に刃物の先端を握らせて振り回しているようなものだ。

 坂井 外交的な面は実はそれほど成功していないと思う。特に対米関係で北朝鮮は実際に核・ミサイル開発を進めていることを示し、米国が慌てて交渉に応じてくるのを期待しているが、それが成功していない。ただし、全くの失敗とも言えない。米は実際に交渉の場に出てくることはないが、常に北のことを念頭に置いている。米の関心を引き付けているという意味では成功だ。

 一方、国内的には大成功だと言える。米国と対等に渡り合えるようになったと宣伝することで、北の住民はかつての弱小国が「強大国と互角の位置に立った」との民族的な自負心を抱き、満足しているのだと思う。核実験や人工衛星打ち上げ(事実上の長距離弾道ミサイル発射)が成功したと聞かされた住民がマンセー(万歳)を叫ぶのは、強制されてというよりは、大国と互角になったという話を聞いて喜んでのことであろう。

 もう一つ国内的効果として挙げられるのは、核・ミサイルで抑止力を持つようになったから、もう経済建設の手伝いに精を出せと軍に言えるようになったこと。それがまさに核・ミサイルと経済建設の並進路線であろう。

  韓国に対する戦略、対南戦略の側面でも北は成果を上げている。北朝鮮が核とミサイルを保有することで韓国の国民はいつ攻撃されるか分からないという恐怖心を感じるようになり、これが南北間の心理的駆け引きで北に有利に働いている。ちょうど喧嘩(けんか)する前に相手を怖がらせた方が有利なのと同じだ。

 その結果、韓国世論は北朝鮮に融和的な政策を取るべきだという方向に傾きやすくなる。北朝鮮に対し毅然(きぜん)とした態度で臨むべきだとする強硬論と対立するようになり、世論が二分される。いわゆる“南々葛藤”と呼ばれる現象だ。韓国が一つにまとまることができず、北朝鮮にとっては有利だ。