拉致と日朝、二国間で困難なら大局的に 坂井氏

どう見る金正恩体制 日韓専門家対談(8)

強まる北朝鮮の対日工作 柳

日本人拉致被害者の再調査などを約束した日朝ストックホルム合意から2年以上が経過したが、成果を上げられずにいる。日本はどうしたらいいか。

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遺骨問題の分科会に臨む伊原純一外務省アジア大洋州局長(右端)と北朝鮮の金賢哲・国土環境保護省局長(左から2人目)。左端は特別調査委副委員長の金明哲・国家安全保衛部参事=2014年10月29日、平壌(代表撮影・時事)

 坂井隆 外交交渉は相手のあることでもあり、結果がうまくいかなかったからと言ってある時点での対応がすべて否定的に評価されるべきとは考えない。合意は表に出てきた部分だが、水面下でいろいろな動きがあった可能性もあり、そういうものを全体として知らないと何が問題だったのか言えない。

 今後、日朝関係をどうすべきかという問題は総論的な話になるが、3点考えなければならないだろう。第1に歴史的問題。かつて日本が統治していた地域との関係正常化が残っている。第2に個別的な懸案問題。拉致や核・ミサイルの問題などがそうだ。第三に地政学的な問題。北朝鮮だけでなくアジアなり世界に対しどういう戦略をとっていくのかという中で朝鮮半島の北半分にある国とどういう関係を築くのか。

 特に北朝鮮の立場からすると日朝関係ではやはり植民地だったことへの賠償を中心に要求してくるが、日本は逆に拉致や核・ミサイルの解決が優先という立場。私は実は第3のアジア・世界戦略の中で北朝鮮とどう向き合うべきかが、それ以外の点に劣らず重要だと考えている。

 二国間関係だけ、しかも特定の問題に絞った解決努力が行き詰まり状態になってしまっているとすれば、大局的な視野からの解決策を検討することも必要ではないかとの印象を持っている。

 柳東烈 日本はこれまで金正日総書記、金正恩委員長と拉致解決をめぐって忍耐強く交渉してきたが、残念ながらあまり成果を上げられずにいる。私は観点を変えて金正恩政権を孤立化させ、体制が崩壊に向かうように働き掛け、次の政権と拉致問題を話し合うことも考えるべきだと思っている。

 坂井 それは一つの考え方としては尊重するが、既存の政権がすぐ倒れる兆候もないのに、その崩壊まで待つという政策、またはそれを倒すことを国策として進めるというのは日本で実際に可能だろうか。

  もちろん秘密裡(ひみつり)に進める話だ。ところで私が個人的に日本の拉致問題に関心を持つようになったのは、北朝鮮の韓国に対する対南工作と関係があるからだ。そして今後、北朝鮮は対日工作を強化すると見ている。

 北朝鮮は2009年に党や軍の傘下にあった工作部署を偵察総局として統合したが、その際、日本工作部署の人員を増やした。統一戦線部や文化交流局(旧225局)、偵察総局の海外情報局(旧35号室)などにはいずれも日本担当課があるが、組織は維持されたままだ。

 対日工作は伝統的に三つの方向が決められている。すなわち在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)など日本内部の親北勢力の形成、親北勢力を通じた日本への政治・経済的影響力行使、そして韓国浸透のためのう回基地の役割だ。金正恩氏としては核・ミサイルに対し日本が科している制裁や遮断されている朝鮮総連関係者による対北送金を解除させるよう圧力をかける必要もある。