天皇陛下「お気持ち」表明に思う

天皇陛下「お気持ち」表明に思う(上)

作家 竹田恒泰

歴史省み衆議を尽くせ

 天皇陛下のビデオメッセージによる、お気持ち表明を大きな驚きをもって拝聴した。天皇は非政治的であるという憲法上の大前提があり、陛下はこれまで皇室制度も含め政治向きな話は基本的にお話しにならなかった。ところが今回、天皇や皇室制度のあり方を議論するきっかけとなるような、相当踏み込んだことを仰った。

竹田恒泰氏

 幸いにしてまだ健康だが、このままだと加齢とともに象徴としての役目を果たすことが難しくなる、というのがお言葉の骨子。将来起こりうる問題を事前に国民にお示しになったのだ。

 ビデオメッセージを陛下が国民に発せられること自体が極めて重大なことだ。今何としてもこのことを国民に伝えなくてはいけないという切実なお気持ちが拝察される。

 ただ、陛下のお言葉を丁寧に読み返してみても、将来問題が起こるということは仰せだが、ではその問題をどのようにして解決するかという具体的な方策に関しては明言を避けていらっしゃる。もし陛下が政治課題に関して明言なさるようなことがあれば、我が国は立憲君主国でなくて絶対王政になってしまう。これまで日本国憲法に定められた天皇の在り方を誰よりも真剣に模索していらっしゃったのが天皇陛下だ。だから、これだけ思いがあって、将来起こりうる問題をご指摘になって、しかし、どのような方法で解決するかということを直接仰らなかったところが、とても大切なところだ。もし天皇陛下が政治的にこのようにすべきだということを仰ってしまったら、誰も反論できない。そうすると天皇を絶対君主に祀り上げることになってしまい、日本の立憲君主主義は瞬く間に崩壊する。

 報道各社は退位の意向のように見出しを立てたが、あのお言葉の中に陛下は「退位」や「譲位」の言葉を一つも使っていらっしゃらない。陛下はあくまでも将来問題が生じるという問題提起をしてくださった。あくまで議論の出発点だ。それをどんな方法で乗り越えて行けるのか。天皇陛下からボールが国民に投げられた。ここで一呼吸置いて、どうすれば陛下がご安心していただけるのか、しっかり衆議を尽くして答えを出すのが大切だ。

 議論の進め方としては、基本的には有識者会議が一つの提言を内閣に出すというのが一つの方法。もう一つは有識者からヒアリングを受け、内閣がまとめる。これも一つ。ただ国民は関係ないかといったらそうではない。世論調査では、天皇陛下に退位していただくのがよいという意見が80%という数字が出ている。これは、そういう空気をマスコミが作ったからで、その責任は非常に大きい。

譲位も明治以前はたくさんあったが、歴史上いろんな問題を生じさせてきた。現在の皇室典範に「譲位」の規定がないのは、編纂担当者がうっかり忘れたわけではない。十分譲位について検討したうえで制度化を見送ってきた結果である。

 譲位が良いものなのか悪いものなのかを考えようとするならば、先例を調べるのが正しい学問的な道筋だ。過去に譲位の議論があったのになぜ見送られたのか、もしそれを現代的にやるならどういう工夫をすべきかなど、過去の議論をさかのぼるべきだ。

(談)