【社説】スーチー氏実刑 総選挙のNLD封印狙う国軍
国軍が実権を握るミャンマーで特別裁判所が、2月のクーデターで身柄を拘束された民主化指導者アウンサンスーチー氏に禁錮4年の判決を言い渡した。国軍は直後、刑期を半減させる恩赦を与えた。狙いはスーチー氏の政界追い落としにあるが、国内外からの批判を軽減する算段によるものと考えられる。
解党示唆するも様子見か
国軍はスーチー氏率いる国民民主連盟(NLD)が大勝した1年前の総選挙を無効と宣言し、2023年8月までにやり直し総選挙を実施する方針だ。スーチー氏が収監されれば、その間は議員への立候補や閣僚就任などはできない。
国軍の狙いはそこにある。国民から圧倒的支持を得ているスーチー氏の手を縛るしか、総選挙に勝てる方策はないからだ。
民主化を力で潰(つぶ)す暴挙に、国際社会から非難の声が上がっている。ブリンケン米国務長官は判決を「民主主義と正義への侮辱だ」と批判し、スーチー氏の釈放を要求。国連のバチェレ人権高等弁務官は「軍の支配下にある裁判所が秘密裏に行った偽物裁判だ」と強く非難した。
スーチー氏の訴追要件は11件で、最高刑の合計は禁錮100年を超す。今回の判決はそのうちの2件にすぎず、これからの政治状況に合わせ国軍は裁判カードを切ってくる見込みだ。
スーチー氏以外にも、NLD政権で大統領を務めたウィンミン氏に禁錮4年の判決が下され、2年に減刑された。ネピドー市長だったミョーアウン氏には禁錮2年の判決だ。
これまでにも、NLD中央執行委員会メンバーで南東部カイン州首相を務めたナンキンツウェミン氏は汚職防止法違反で禁錮75年、同党顧問のウィンテイン氏は扇動罪で禁錮20年などと長期刑の判決を受けている。またNLD党員430人以上が当局に拘束されている中、拘束中や解放直後に死亡した人も13人いるとされる。
懸念されるのが国軍によるNLD解党だ。選挙管理委員会は今春、解党を示唆したが、具体的な手続きには入っていない。トップと主要幹部をごぼう抜きにされたNLDの弱体化は必至で、2年後の総選挙に大きな影響力を持たないと国軍が判断すれば、国際社会の目もあることからNLD存続の芽は残る。
ミャンマーの悲劇的シナリオは、国軍がNLDを解党に追い込むことで、国内の武力闘争が激化して国家が乱れることだ。また、東南アジア諸国連合(ASEAN)の会議からも締め出されるなど国際的孤立の道を驀進(ばくしん)する国軍は、国連安保理常任理事国でもある中国を頼みの綱とせざるを得なくなる。ミャンマー情勢を静観している中国は、状況の長期化で国軍は中国に寄ってくると、熟柿戦略によるミャンマー取り込みを図る。
国際社会は放置するな
ソ連崩壊後、南進を国策とした中国は、ASEANを取り込むため、ミャンマーをラオス、カンボジアに次ぐ第3の“衛星国”にしたい。こうしたシナリオを排除するためにも、国際社会は事態を放置してはならない。ミャンマー情勢への無関心は、民主化を力で潰そうとしている軍事政権を増長させる。