激変の時代に直面するアジア
拓殖大学国際日本文化研究所教授 ペマ・ギャルポ
日本は責任あるリーダーに
覇権主義・中国への対応不十分
2020年は干支ではねずみ年に当たり十二支で最初の年である。今、アメリカはトランプ大統領の「アメリカファースト」という内向きの政策と大統領選挙の年のため、世界の大国として十分に力を発揮できない様相を示している。一方、中国の世界覇権への活動は表面的には多少鈍化はしても、具体的には着実に進んでおり、北朝鮮も核実験を継続的に行っている。つまりアジアの情勢は戦後最も激変の時代に直面している。
理念・ビジョン持つ国に
私が日本に来たのは1964年の東京オリンピックの翌年で、初めてオリンピックを主催した熱気が充満していた。日本は戦争に敗北してわずか20年足らずで奇跡的な復興を達成し、多くの国々にとって羨望(せんぼう)の的になっていた。この日本のすさまじい経済発展ぶりはもちろん日本人の汗と涙の結晶であって、アジアの多くの国々だけでなく世界でも日本の経済力と科学技術の発展は確固たる地位を獲得していた。
だが逆に日本は世界第2位の経済大国になったにもかかわらず、経済のみ重視する国として不名誉なエコノミックアニマルというレッテルを貼られたことも事実である。これを払拭(ふっしょく)するために日本は国連への貢献、ならびにアジアを中心に世界各国に対して、それなりの技術面および経済面で多大な努力と貢献をした。そして安倍晋三内閣が誕生することによって政治の面においても顔が見える存在感を示し始めた。
64年のオリンピックで日本が経済的に存在感を示し始めたように、2020年は日本が政治面でも世界とまでは言わないにしても、アジアにおける大国として自由、民主、法の支配による秩序を確立し、アジアの繁栄と安定に寄与する良い機会となるよう期待したい。
安倍首相の長期政権の多くの功績の中の一つ、安倍首相が言う積極的平和外交を行うことで、戦後レジームからの脱却と同時に、エコノミックアニマルから脱し、理念とビジョンを持つようになった。そして、国内のみならず海外からも、普遍的な価値としての自由、人権、民主主義の制度に基づく世界平和に対して、日本がその国力に見合った義務を果たし始めたとみられていた。安倍首相が提唱した「自由で開かれたインド太平洋構想」は明確な理念と普遍的な価値観に基づく具体的な政策であると同時に、多くの人々に対して希望を持たせるビジョンでもあった。
今、世界の関心を集めているイランおよび北朝鮮の核の問題、香港、チベット、ウイグルなどにおける中国の非人道的、独裁的悪政はアジアの中の問題であり、本来であればアジアのリーダーとして日本が積極的に関われる課題でもある。大げさに言えば、中国のこの悪政はガンのようにアジアを中心に世界中に蔓延(まんえん)し始めており、世界の独裁者たちは中国から独裁政治維持のための物質的政治的支援を受けている。さらに最新のIT技術などによって反政府分子の取り締まりのノウハウとして顔認識の機材と技術も導入されている。
このような状況ではもちろん日本だけで中国を牽制(けんせい)し、その覇権主義を止めることはできない。例えば香港の例一つを取っても、ヨーロッパの国々やアメリカが大きな関心を示し、明確にモラルサポートをしているのに、アジアのリーダーとしての日本の姿勢は十分とは言えない。台湾の人々が民主制度を的確に活用し多大な覚悟と犠牲の上で中国共産党に立ち向かい、民進党が選挙で勝利を勝ち取ったとき、日本の外務大臣の談話に続き記者会見における官房長官の発言は多くのアジアの人々に安堵(あんど)を与えた。
日印関係一層の深化を
リーダーはメディアという第四の権力によって左右されることなく自らの信念を、勇気を持って進めることが大切である。例えばインドのモディ首相のジャム・カシミール地方における戒厳令も、メディアの批判はともかく結果的にテロ活動が7分の1に減少した。安倍首相が、盟友のモディ首相が率いる世界最大の民主国家インドとの関係をさらに深化させ、「開かれたインド太平洋構想」の深化に努め、2020年を日本にとって包括的にアジアの責任あるリーダーになるための出発点にするよう、心より願っている。






