法廷で戦う企業経営者 避妊費拒否なら巨額の罰金

オバマの対宗教戦争・第1部
神を見失うアメリカ(4)

500

オバマ政権を提訴している手工芸用品チェーン「ホビー・ロビー」の経営者デービッド・グリーン氏(宗教の自由のためのベケット基金提供)

 オバマ米政権が打ち出した避妊薬の無料化政策により、信仰に反して職員の避妊費用負担を強いられるのは、病院や大学、慈善団体など宗教組織が運営する非営利団体だけではない。営利企業の経営者もそうだ。30社以上が信教の自由を守るためにオバマ政権を相手に訴訟を起こしている。

 手工芸用品チェーン「ホビー・ロビー」を経営するデービッド・グリーン氏(71)もその中の一人。1970年にオクラホマ州の自宅ガレージで立ち上げたビジネスを、全米に500店以上を構える規模にまで成長させた。

 「ホビー・ロビーが存続できたのは神の恩寵だ」。牧師の家庭に育ち、自身も敬虔な福音派キリスト教徒であるグリーン氏は、こう言って憚らない。

 経済活動を行う営利企業は公の場に信仰を持ち込むべきではない、というのがオバマ政権の考え方だ。だが、日曜日を全店休業にするなど、聖書の教えに忠実な会社経営を心掛けてきたグリーン氏にとって、ビジネスと信仰は切り離すことができない。

 グリーン氏は避妊自体に反対しているわけではない。負担義務化の対象に「モーニング・アフター・ピル」と呼ばれる緊急避妊薬が含まれていることだけがどうしても許容できないとの立場だ。

 性交後に服用する緊急避妊薬には、受精卵が子宮内に着床するのを妨げる作用がある。生命は受精の時点で誕生すると信じるグリーン氏からすると、緊急避妊薬を服用することは受精卵を殺す、つまり中絶に等しい行為と映るわけだ。

 カトリック教会の反発も緊急避妊薬が大きな理由の一つだ。彼らにとって緊急避妊薬を提供することは、忌み嫌う中絶に間接的に加担することを意味する。メキシカン・アメリカン・カトリック大学のアルトゥーロ・チャベス学長は、メディアへの寄稿で「我々は中絶を促す薬や手術を邪悪と信じる。妥協の余地はない」と主張した。

 グリーン氏が負担義務を拒否すれば、一日当たり、従業員一人につき100ドル(約1万円)、社全体で130万ドル(約1億3000万円)の罰金が科される。このような巨額の罰金を支払いながら経営を続けるのは困難だ。

 一方、日本でも人気の宅配ピザチェーン「ドミノ・ピザ」の創業者トーマス・モナハン氏(76)も、オバマ政権を訴えている経営者の一人。子供の頃、カトリック教会の孤児院で育てられた過去を持つモナハン氏は、1998年にドミノ・ピザを売却した後、カトリックの教えを広めることに私財を投じてきた。

 モナハン氏はミシガン州で運営するオフィスパーク「ドミノ・ファームズ」の経営者として、またフロリダ州のアヴェ・マリア大学の創設者として訴訟を起こしている。営利企業と非営利団体の両方で裁判に携わっているのはモナハン氏だけと言われている。

 オバマ政権は宗教系の非営利団体には妥協策を提示するなど、配慮姿勢だけは見せている。だが、営利企業への配慮は一切無い。法廷闘争だけが経営者に残された唯一の抵抗手段だ。

 裁判でオバマ政権は、営利企業に免除措置を与えれば、企業経営者に自分たちの信仰を従業員に押し付けることを許すことになると主張。従業員の信教の自由を盾に反論している。

 グリーン氏の弁護を担当する保守派法曹団体「宗教の自由のためのベケット基金」によると、オバマ政権を訴えた営利企業のうち、ホビー・ロビーを含め20社以上が暫定的な免除措置を勝ち取っている。ただ、高裁によって判決は割れており、訴訟は最高裁まで行くとの見方が支配的だ。

(ワシントン・早川俊行)