伝説の女性活動家の嘆き 神に取って代わる政府

オバマの対宗教戦争・第1部
神を見失うアメリカ(2)

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インタビューに応えるフィリス・シュラフリー女史

 「オバマ大統領は宗教を公の場から排除し、米国を完全な世俗国家に変えようとしている」。こう喝破するのは、草の根保守派団体「イーグル・フォーラム」の創設者、フィリス・シュラフリー女史だ。

 シュラフリー女史といえば、米保守派の間ではその名を知らぬ者はいない伝説的な活動家。半世紀以上にわたり、米国の伝統的価値観を破壊しようとする左翼リベラル勢力との戦いに身を捧げてきた。特に有名なのが、1970~80年代にかけ、フェミニストたちが推進し、成立目前までいった「男女平等憲法修正条項(ERA)」をほぼ独力で阻止したことだ。

 現在はミズーリ州セントルイスを拠点に活動しているが、首都ワシントン近郊で開かれた保守派の会合に出席した際、本紙のインタビューに応じた。

 1924年生まれの88歳。常に笑みを絶やさない優雅な表情からは、今なお左翼勢力と戦い続けているとは想像もつかない。だが、信教の自由をめぐる問題について質問を始めると、険しい「闘士」の表情に一変し、辛辣なオバマ氏批判を繰り広げた。

 「オバマ氏の考え方は、教会で扉を閉めて祈りを捧げるのは構わないが、公の場で宗教活動をするのは認められない、というものだ。つまり、信教の自由を『礼拝の自由』に狭め、宗教を教会の壁の内側に閉じ込めようとしているのだ」

 公の場から宗教を排除する試みは、「全米自由人権協会(ACLU)」など過激なリベラル派団体が推し進めてきた。彼らは、公共施設にキリスト教的なものがあると、撤去するよう圧力を掛け、応じなければ訴訟を起こす。勝訴の判例を積み重ね、宗教的要素を社会から削り取ってきた。

 ACLUに訴えられるのを恐れ、クリスマスツリーを「ホリデーツリー」と言い換えたり、公立学校から「モーゼの十戒」を撤去するなど、自主的に「脱宗教化」を進める公共団体も少なくない。彼らの圧力で米社会は世俗化傾向を強めていると言っても過言でないが、シュラフリー女史は「オバマ氏の考え方はACLUが行ってきたことと完全に一致する」と言い切る。

 シュラフリー女史は昨年、オバマ氏がいかに宗教に不寛容であるかを詳述した『至高の権力-オバマの宗教の自由に対する戦争』(共著)を出版した。それによると、オバマ氏は2009年にカトリック系のジョージタウン大学で演説した際、壇上にあったイエス・キリストの名前を象徴する文字を隠させたほか、1776年の独立宣言から「創造主」という言葉を省いて引用したことが何度もあった。オバマ氏は宗教的要素の排除を自ら“実践”していることが分かる。

 カトリックを中心に人工的な避妊を不道徳と信じる人がいる中、オバマ政権は企業や団体が職員に提供する医療保険の適用対象に避妊薬や不妊手術を含めることを義務付けた。また、オバマ政権が同性愛者の権利拡大を強力に推し進めてきたため、宗教的信念に基づき同性愛や同性婚に反対する人は偏見を持つ者と見なされる風潮が生まれている。

 宗教界や保守派が反発するのは、オバマ政権がモラルの基準を定め、それを押し付けるためだ。『至高の権力』という著書のタイトルは、オバマ政権下の米国では連邦政府以上に崇高な存在はない、つまり、連邦政府が神に取って代わりつつある現状を表している。

 シュラフリー女史は言う。「オバマ氏が目指すのは『神の下の一つの国』ではない。『世俗的な連邦政府の下の一つの国』だ」

(ワシントン・早川俊行、写真も)