揺らぐ米国の時代 悪夢の「超大国・中国」

再考 オバマの世界観(26)

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2014年11月、北京の人民大会堂で歓迎式典に臨むオバマ米大統領(左)と習近平中国国家主席(UPI)

 オバマ米大統領は米国の「例外主義」を否定する超リベラルな世界観に基づき、「米一極世界から多極世界への移行を志向」(リー・エドワーズ・ヘリテージ財団特別研究員)してきた。

 過激派組織「イスラム国」の台頭を招いた2011年末のイラクからの米軍完全撤退が象徴する内向きな対外政策は、米国の影響力を大きく傷つけた。また、国防費の大規模削減は、米軍の深刻な戦力低下をもたらした。米国は依然、世界の超大国ではあるが、オバマ氏の下でその地位や威信が大きく揺らいだことは間違いない。

 米国を超大国とする一極世界を好ましくないと信じるオバマ氏。これに対し、米国から超大国の座を奪おうと虎視眈々(たんたん)と狙っている国がある。中国だ。米政府や議会で長年、中国分析を担当してきたマイケル・ピルズベリー国防総省顧問は言う。

 「中国は毛沢東による1949年の建国から100周年の2049年に焦点を当て、100年かけて米国に代わる世界の超大国となる秘密戦略を隠し持っている。中国はその目標に向かい、『100年マラソン』をしている」

 ニクソン政権以降、米国の歴代政権は40年以上にわたり、その秘密戦略に気付かぬまま、中国の台頭を積極的に支援してきたという。「建設的関与」によって、中国を平和的で民主的な国家に誘導できるという幻想を信じて疑わなかったからだ。つまり、米国は戦後築き上げた国際秩序を脅かす強大なライバルを自らの手で生み出したのである。

 「マラソンが進行中であることさえ知らない米国は負けている」

 このままでは本当に2049年までに超大国の座を中国に奪われると、ピルズベリー氏は警告する。

 「自己封じ込め」で特徴付けられるオバマ・ドクトリンの背後にあるのは、米国を世界の問題児と見なす自虐主義だ。だが、本当に「パックス・アメリカーナ」は世界にとって不幸なのか。米国が超大国の座を失い、中国が台頭する世界が好ましいのか。

 ピルズベリー氏は2月に出版し、対中政策関係者の間で注目を集める著書「100年マラソン」で、中国を中心とする2049年の国際秩序がどうなるか予想を試みている。

 それによると、中国は▽親中独裁国家を支援し、民主主義国家を弱体化させる▽米国と敵対する勢力と同盟を構築する▽深刻な大気・海洋汚染を世界に“輸出”する▽インターネット上の情報統制を世界的に展開する▽他国の知的財産を盗み続け、中国国営企業が世界の市場を支配する▽独裁・反欧米国家への兵器輸出を拡大する――可能性が高いという。まさに「悪夢」(同氏)の未来予想図である。

 保守派評論家のディネシュ・デスーザ氏は著書で、米国がこのまま超大国の地位を失えば、将来の歴史家は米国の時代があまりに早く終焉(しゅうえん)したことに驚くだろうと指摘している。

 「ローマの時代は約1000年、オスマン・トルコの時代は数世紀、英国の時代は約2世紀続いた。米国が単独の超大国の時代は、ソ連崩壊からわずか20年だ。米国は世界史上、最も短命の超大国となる」

 デスーザ氏は「頂点の地位を一度失った国は、二度とその地位に戻れないことは歴史が示している」と論じた上で、オバマ氏が米国の超大国の地位を意図的に低下させてきたことを、こう批判する。

 「これは国家的な自殺行為だ」

(ワシントン・早川俊行)

=終わり