国防費の強制削減 惨事ではなく業績と認識か
再考 オバマの世界観(23)
米国の超大国の地位を支える米軍が、急激な戦力低下を強いられている。その元凶となっているのが、2013年に発動された大規模な強制歳出削減だ。
下院軍事委員会のランディー・フォーブス海軍力・投射戦力小委員長は、国防費の大幅削減で米軍が本来の役割を果たせない危険な状況が生まれていると指摘する。
「空軍はもはや航空支配を保障できない状況に近づいていると言う。陸軍に聞けば、一つの戦争に勝つことも保障できないと言う。海軍は艦艇数(現在273隻)が260隻になれば、超大国の座を失い、地域大国になると言っている」
国防費が国家予算に占める割合は2割程度にすぎないが、10年間で1兆2000億㌦の強制削減額のうち国防費が負う割合は半分を占める。2014、15会計年度は削減額が緩和されたものの、膨れ上がった財政赤字のツケを米軍に押し付けている状況だ。
スティーブン・ブッチ元国防副次官補によると、国防費の削減方法には制約があり、給与、医療手当、退職手当の3大支出には手が付けられない。このため、「人員を減らし、訓練や装備の改修・近代化を中止するしかない」という。
既に米軍に深刻な打撃を与えている国防費強制削減がこのまま続けば、事態は一段と悪化すると、ブッチ氏は警告する。
「今、大規模戦争が発生したら、米軍はまだ戦える。即応能力は低下したが、依然強力であり、おそらく勝利できる。だが、2年後は分からない」
国防費強制削減は議会の財政赤字削減交渉決裂を受けて発動されたものであり、その責任はオバマ大統領だけにあるわけではない。だが、オバマ政権で国防長官を務めたレオン・パネッタ氏は、昨年出版した回顧録「価値ある戦い」で、強制削減回避のために行動しなかったオバマ氏に強い不満を示した。
「オバマ氏は極めて知性の高い人物だが、熱意に欠ける。指導者としての情熱ではなく、法学教授の論理に頼ることが多過ぎる」
頭でっかちで指導力や情熱に欠けることがオバマ氏の「最大の弱点」であり、そんな最高司令官の姿にパネッタ氏は「いら立った」と明記している。
前任のロバート・ゲーツ元国防長官も回顧録「責務」で、「オバマ氏に欠けていた一つの資質は情熱だ」と、パネッタ氏と同様の見解を示している。ゲーツ氏から見て、オバマ氏が国防政策で唯一、情熱を注いだのは、同性愛者の米軍入隊解禁だったという。
パネッタ氏はオバマ氏の指導力の欠如が強制削減の発動を許したと指摘するが、本当に指導力の問題だったのか。確かに、オバマ氏は強制削減に一貫して反対を表明してきた。だが、これはオバマ氏の本音なのだろうか。
ブッシュ前政権で国防次官を務めたダグラス・ファイス・ハドソン研究所上級研究員は、ワシントン・エギザミナー誌に掲載された評論でパネッタ氏とは異なる見方を示した。
「オバマ氏は強制削減を惨事とは見ていない。それどころか業績と捉えているかもしれない」
オバマ氏が強制削減回避に動かなかったのは、指導力の欠如ではなく、米国の軍事力低下を好ましいと捉えるオバマ氏の信念に基づいている、というのがファイス氏の分析である。
米国の歴史や超大国の地位を否定的に見るオバマ氏の外交ドクトリンが「自己封じ込め」と特徴付けられることを踏まえると、国防費削減はむしろ、米国のパワー抑制でオバマ氏が指導力を発揮していることを示す事例と見るべきかもしれない。
(ワシントン・早川俊行)






