ACORNの闇(下) 左翼第三政党に入党
再考 オバマの世界観(17)
民主党と共和党の二大政党制である米国で、大統領候補が社会主義を志向する第三政党に所属していたことが発覚したらどうなるだろうか。そのような怪しげな過去は、穏健派や無党派層を遠ざけ、大統領選の行方に決定的影響を与える大スキャンダルとなってもおかしくはない。
実は、オバマ大統領にはそうした過去がある。1996年のイリノイ州上院議員選に出馬した際、オバマ氏は「新党(ニュー・パーティー)」という左翼政党に入党し、支持を受けていたのである。
「倫理・公共政策センター」上級研究員のスタンリー・カーツ氏は、この事実を2008年大統領選の終盤にナショナル・レビュー誌(電子版)で暴いた。これに対し、オバマ陣営は「狂気じみた中傷」だと全面的に否定。民主党寄りの大手メディアもほとんど注目せず、オバマ氏はそのまま当選を果たした。
オバマ氏の過激な過去について文献調査を続けたカーツ氏は、オバマ氏が新党の党員だったことを示す決定的証拠を12年に見つけだす。カーツ氏によると、1996年1月11日の新党シカゴ支部の会議議事録には、こう記されていた。
「バラク・オバマ州上院議員候補は、新党の『候補者規約』に署名し、新党の支持を求めた。オバマ氏はまた、新党に入党した」
これを裏付けるように、翌年の新党シカゴ支部の党員名簿には、オバマ氏の名前があり、入党した日付は議事録通り96年1月11日となっていた。
カーツ氏によると、新党シカゴ支部は事実上、過激な左翼団体「即時改革のためのコミュニティー組織協会(ACORN)」傘下の政治組織だった。実際、新党シカゴ支部を仕切っていたのは、ACORNシカゴ支部のリーダー、マデレーン・タルボット氏だった。ここでもオバマ氏とACORNの深い関係が浮かび上がる。
96年の州上院議員選では、新党に近い別の左派候補がオバマ氏と対決する可能性があったため、当時、政治基盤が弱かったオバマ氏は、新党に入党して“忠誠”を示すことで、ACORNの支持を取り付けたかったとみられる。
カーツ氏は、これらの証拠はオバマ氏が2008年大統領選で米国民を欺いたことを示すものだと断じ、オバマ氏の過激な過去は12年大統領選の争点になるべきだと訴えた。だが、やはり、大手メディアが追及することはなかった。
ACORNはオバマ氏ら民主党左派議員を通して政界に絶大な影響力を築いたほか、コングロマリット(複合企業)のごとくさまざまな事業を展開し、多額の政府補助金、企業・財団の寄付金を得るなど、栄華を誇ってきた。
だが、08年大統領選での大規模な不正有権者登録で風当たりが強まり、さらに翌年、売春斡旋業者と娼婦に扮(ふん)したジャーナリストにACORN職員が政府補助金の不正取得や脱税、マネーロンダリングなどを指南する映像が公になり、非難が殺到した。
これを受け、連邦議会はACORNへの補助金拠出を禁じる法律を成立させた。政府補助金が収入の4割を占めていたとされるACORNは、事業継続が困難になり、10年に閉鎖に追い込まれる。
だが、調査ジャーナリストのマシュー・バダム氏は、「ACORNは破産宣告したが、各州の支部は名前を変えて活動を続けている」と指摘する。非営利政府監視団体「コーズ・オブ・アクション」による12年の調査によると、174のACORN系団体が活動を継続し、少なくとも2団体が連邦政府の補助金を受給したという。
(ワシントン・早川俊行)