大手メディアの「偏愛」 過激な過去を追及せず

再考 オバマの世界観(22)

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昨年12月、ホワイトハウスでメディアの質問に答えるオバマ米大統領(UPI)

 2008年米大統領選投票日の数日前、テレビ番組で著名なベテランジャーナリストのトム・ブロコー氏(NBCテレビ)とチャーリー・ローズ氏(PBSテレビ)が、次期大統領に選出される見通しのオバマ氏について語り合った。

 ローズ氏「私はオバマ氏の世界観が分からない」

 ブロコー氏「私も分からない」

 ローズ氏「オバマ氏が中国をどう見ているのか分からない」

 ブロコー氏「外交政策に関するオバマ氏の考え方が分からない」

 ローズ氏「本当に分からない」

 大統領選投票日を目前に控えた時点で、2人の重鎮ジャーナリストがオバマ氏は何を考えているか「分からない」と連発したのである。大統領選報道で米メディアが2年近くオバマ氏を追い続けてきたのは何だったのか。

 本連載で報じてきたように、ハワイで共産主義者のフランク・マーシャル・デービス氏を師と仰ぎ、コミュニティー・オーガナイザーとして極左活動家ソウル・アリンスキー氏の理論に傾倒し、シカゴで元極左テロリストのビル・エアーズ氏や反米・白人敵視のジェレマイア・ライト牧師、左翼市民団体「即時改革のためのコミュニティー組織協会(ACORN)」と緊密な関係を築いた過去を見れば、オバマ氏が過激な左翼思想の持ち主であることは明らかだ。

 だが、初の黒人大統領誕生を望んだ大手メディアは事実上、「オバマ応援団」と化し、オバマ氏の過去や思想を深く追及しなかった。オバマ氏の国民融和を目指す超党派政治家のイメージは保たれ、左翼思想に染まった素顔は有権者にほとんど知られなかった。

 この時の大手メディア報道の異常さについて、メディアアナリストのバーナード・ゴールドバーグ氏は著書でこう書いている。

 「大手メディアの記者は常に民主党支持だ。だが、今回は違った。彼らは歴史の目撃者であるだけでは満足せず、本物のプレーヤーとなって結果を左右しようとした。彼らにとってそれは崇高な歴史的使命だった。多くの記者がこれほど露骨に一方を全面支援したことは記憶にない」

 ライト師が米国を罵る過激な説教の映像は選挙戦で大きな騒動となったが、これを大手メディアで最初に報じたのは、ABCテレビのブライアン・ロス氏だった。だが、ジャーナリストのエドワード・クライン氏の著書「アマチュア」によると、ロス氏は「私がこの話を持ってきたことをABCの全ての人が喜んだわけではなかった」と、スクープ報道にもかかわらず、オバマ氏にマイナスの内容だったため、社内では必ずしも歓迎されなかったと証言している。

 オバマ氏の大統領就任後も、大手メディアの姿勢はそのままだ。ワシントン・タイムズ紙電子版論説エディターのモニカ・クローリー氏が、大手テレビ局のベテラン社員から聞いた話によると、それまで社内で暗黙の了解だったリベラル・バイアス(偏向)が公然となり、編集会議で「今日はオバマ氏をどう守るか」と露骨に語られるという。

 また、CBSテレビの元記者シャリル・アトキッソン氏は昨年出版した著書で、オバマ政権のスキャンダルを厳しく追及する同氏の調査報道は上層部に嫌われ、放送が見送られたことなどを暴露した。

 オバマ氏に対する異常ともいえる大手メディアの偏愛ぶりを、クローリー氏はこう批判する。

 「チアリーダーになることは報道機関の役割ではない。だが、多くのメディアはもはや、説明責任や知的誠実性、真実に無関心だ」

(ワシントン・早川俊行)