士気低下する米軍 リベラルな政策を押し付け

再考 オバマの世界観(24)

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インタビューに応えるジェリー・ボイキン退役米陸軍中将

 米軍がオバマ政権下で苦しんでいるのは、国防費の大幅削減による戦力低下だけではない。士気やモラルも著しく低下している。

 「兵士たちの目には、オバマ大統領は戦争に勝つことよりも、政治課題の押し付けを優先していると映っている」

 ブッシュ前政権で国防副次官を務めたジェリー・ボイキン退役陸軍中将は、現場兵士の間で最高司令官に対する不信感が蔓延(まんえん)していると言い切る。

 オバマ政権は現場の強い反対を無視して同性愛者の入隊を全面解禁したほか、フェミニスト勢力の要求に従い、女性兵士を最前線の戦闘部隊に配属する方針を決定。米軍は戦争を遂行中にもかかわらず、戦闘能力の向上にはつながらない、むしろ、現場に大きな負担を強いるリベラルな政策を推し進めている。

 ボイキン氏は「今の米軍では資質が不十分でもオバマ政権の政策を支持する者は昇進する一方、支持しない者は能力があっても昇進が見送られている」と指摘する。このため、将来、将官となるべき多くの有能な中堅幹部が米軍の方向性に失望し、「自主的に軍を去っている」という。

 また、オバマ政権下で顕著になっているのが、宗教に敵対的な風潮だ。米軍内から宗教的要素を排除する動きが極端な形で進み、兵士の信教・良心の自由が否定されるケースが相次いでいる。

 最近の事例では、米軍専属の聖職者「チャプレン」を19年務めてきた福音派キリスト教牧師のウェス・モダー海軍少佐が、私的なカウンセリングで同性愛や婚外交渉に否定的な考えを示したことを、部下から「差別」と訴えられて職を解かれた。

 モダー氏を訴えた男性士官は、自身が同性愛者で男性と結婚している事実を隠し、モダー氏に同性愛に関する見解を尋ねていたことから、同氏を意図的に陥れたとの見方が強い。この士官の行動は問題視されず、モダー氏だけが一方的に断罪されたことも、オバマ政権下では信教の自由よりも同性愛者の権利が優先される風潮を物語っている。

 モダー氏の代理人を務めるマイケル・ベリー弁護士は、ワシントン・タイムズ紙に「信仰を持つ人々が軍を敬遠している」と述べ、宗教に敵対的な風潮が新兵募集に悪影響を与えているとの見方を示した。ベリー氏によると、子供を軍に入れたくないという親が増えており、元海兵隊員の同氏も「自分の子供が軍に入ることには躊躇(ちゅうちょ)する」と語った。

 これは志願制を採用する米軍にとって極めて深刻な問題だ。特に、愛国心が強く保守的な福音派キリスト教徒は、兵士の4割を占めると言われ、彼らの間で入隊を敬遠する傾向が強まれば、米軍の根幹が揺らぐことになる。

 一方、米軍は女性兵士を戦闘部隊に配属するための調査を進めているが、海兵隊では歩兵士官課程に挑戦した女性29人全員が脱落。このうち初日の訓練を通過できたのはわずか4人だった。陸軍レンジャー部隊の課程には8人の女性が挑んだが、全員が最初の段階で脱落した。

 これらの結果は男女の身体能力に大きな差があることを再確認させるものだが、ホワイトハウスは訓練課程の基準を女性が通過できるレベルに引き下げるよう現場に圧力を掛けている。米軍のジェンダー・フリー化のためなら、兵士の質が低下しても構わないというのである。

 オバマ政権下で急激に変わりつつある米軍のカルチャー。ボイキン氏は言う。

 「オバマ氏は保守的だった米軍をリベラルな組織に変えようとしている」

(ワシントン・早川俊行、写真も)