後期妊娠中絶、全米で禁止を

Charles Krauthammer米コラムニスト チャールズ・クラウトハマー

売却される胎児の器官

超音波映像で国民感情変化

 「家族計画連盟に感謝する。ありがとう」

 オバマ大統領の家族計画連盟での演説、2013年4月26日

 【ワシントン】米家族計画連盟で胎児の体の一部の売却に関する会話が隠し録りされ、公表されたことに対する連盟の反応はとても示唆に富んでいる。違法なことは何もしていないと抗議した上で、局長の一人の話の「調子」について謝罪した。

 リチャーズ会長も認めたように、この局長の言葉には気持ちがこもっていなかった。デボラ・ヌカトラ局長は、価値のある売れる器官に傷を付けないように胎児の体を鉗子でつぶす様子を、サラダを食べ、ワインを飲みながら、感情を入れず、普通に話していた。会長は、これがこの局長個人の特異な体質のせいだとでも言いたいかのようだ。たがこれは、一種の精神的無感覚にほかならない。成長途中の明らかに人と分かる胎児を仕事の中で日常的に処理していれば、起こり得ることだ。

 今週、同じことが起きた。別の職員が、同じように普通の様子で、自慢げに、胎児の肝臓の値段交渉をしている場面を撮った動画が公表された。職員の様子は楽しそうにすら見える。「安過ぎるようなら、値段を上げればいい。ランボルギーニが買えるかな」と冗談を飛ばした。

 中絶クリニックは、問題は明らかに、中絶によって胎児の命が奪われることにあるが、私たちにとっても厄介な問題となり得ると以前から警告してきた。これはまさに脱感作であり、オランダで行われている安楽死でも同じことが起きている。これは、末期患者から苦痛を取り去るために始められた。今では広範囲に、むやみに実施されるようになり、オランダで自殺幇助(ほうじょ)を受けた全患者の5人に1人は、明確な合意のないまま安楽死させられている。

 動画の公表で何らかの影響が出るだろう。だが、政府予算には影響はないだろう。民主党が連盟を強く支持し、オバマ大統領もこれを神の導きとして望んでいるからだ。連盟も法的な処分を受けない可能性がある。胎児の器官の売却は法律で禁止されているが、これには抜け道があり、輸送や処置などの経費を補うためなら認められている。

 しかし、一般国民の間の認識には影響があるはずだ。超音波によって、子宮内で成長する胎児の生き生きとした様子が映像で見られるようになり、中絶への見方が変わったように、連盟も、命が破壊されるクリニックの内部へと通じる扉を開放することで、変わっていくのではないかと一縷(いちる)の望みを抱いている。

 見るに堪えない映像だ。器官の売却も問題だが、入手の方法がさらに大きな問題だ。中絶支持者にとっては都合の悪いことだが、健康な胎児がどのようにして処理され、売却可能な器官のかたまりにされていくか、連盟幹部が言ったような、頭を砕き、臓器を残すために「あまりつぶさず、より完全な形で標本を手に入れるテクニック」がどのように使われるかに関して、広く知られるようになっている。

 大衆への影響は、2段階の感覚の変化として表れる。まず、超音波映像によって、生きた胎児がいかに人らしく見えるが分かった時、次いで、中絶という想定外の事態の中で、胎児がどのような殺され方をしているかを知った時だ。

 考えてみれば、超音波が利用されるようになって、驚くべき現象が起きている。あらゆる社会現象の中でリベラル化が進んでいるにもかかわらず、中絶だけはそうなっていないのだ。薬物の合法化が進み、結婚の定義が見直されるなど、個人の自主性を強める主張が、驚くべき速度で認められているが、中絶への対応に関してはほぼ変わっていない。国内は賛否に二分されたままだ。

 このような連盟にどのような対応をすべきだろうか。まずは、すぐに税金の投入を止めるべきだ。連盟の活動に嫌悪感を抱いている国民をその共犯にしてはならない。そして、活動の焦点は、まとめ役から手続きそのものに変更すべきだ。

 下院はすでに妊娠期間が20週を超えた中絶を禁止する法案を承認している。その方が、完全に禁止するより有益だ。明らかに憲法違反である問題は別にして、初期胚への考え方について倫理的に国民的な合意がないからだ。妊娠後期の胎児に関しては合意が得られやすい。米国人に聞いてみれば、ほぼ3分の2は、妊娠初期後の中絶に反対するはずだ。

 初期の中絶に関しては考え方が対立している。初期胚への個人の捉え方は、ほとんどがそれぞれの価値観の問題であり、とりわけ宗教的価値観によるところが大きいからだ。しかし、妊娠後期の胎児については、共感的同一性とでもいうべき部分が強くある。人として認識可能な胎児の映像を見ることもできれば、その存在を「終わらせる」ためにどのような措置が取られるかを専門家から正確に聞くこともできる。

 民主政治の役割は、このような倫理的感性を法律にしていくことにある。後期中絶の全米での禁止を強力に進めるべき時だ。

(7月24日)