次は「性」差別の非合法化 新たな闘争を開始した米LGBT勢力
米連邦最高裁判所は6月に同性婚を全米50州で合法化させる判決を下したが、同性愛者ら性的少数者(LGBT)勢力は早くも新たな闘争に着手している。それは、性的指向や性自認(ジェンダー・アイデンティティー)に基づくあらゆる差別を非合法化することだ。現代の米国社会では人種差別や女性蔑視がタブーであるように、同性愛や性転換についても批判を一切許さない社会の実現を目指している。
(ワシントン・早川俊行)
連邦議会に「平等法案」提出
同性愛批判タブーの社会目指す
最高裁判決から1カ月も経過していない7月23日、全米最大の同性愛者団体「人権キャンペーン」を中心とするLGBT勢力の強力な後押しを受け、連邦議会に性的指向や性自認に基づく差別を禁止する通称「平等法案」が提出された。黒人差別撤廃のために1964年に制定された公民権法は、人種、肌の色、性別、宗教、出身国に基づく差別を禁じているが、「平等法案」はこれに性的指向と性自認を差別禁止の対象として加えるというものだ。
LGBT勢力はこれまで、同性愛者や性転換者らに対する職場での差別を禁じる「職業差別禁止法案(ENDA)」の成立を目指し、活発なロビー活動を展開してきた。1994年以降、議会にほぼ毎年提出され、2013年に初めて上院を通過。ただ、下院を支配する共和党の反対で成立には至らなかった。
最高裁判決で勢いづくLGBT勢力は、職場に限定したENDAではなく、もっと幅広い範囲でLGBT差別を禁じる法案の成立を目指す方針に転換した。それが今回の「平等法案」だ。成立すれば、雇用だけでなく、教育、住宅、公共施設など広範な分野で性的指向と性自認に基づく差別が違法となる。
これに対し、保守系シンクタンク、ヘリテージ財団のライアン・アンダーソン上級研究員は、法案について「法の下の平等を守るのではなく、性的指向と性自認に基づく特権階級を生み出すものだ」と批判。LGBTを特権階級化する法案を「平等法案」と呼ぶことは「誤称だ」と断じた。
「平等法案」が成立すれば、社会に深刻な弊害、混乱をもたらすことは避けられない。例えば、自分を女と認識する男性教師が突然、女の格好をして学校に現れれば、子供たちに深刻な悪影響を及ぼす。このような人物は教師として不適格だが、性自認に起因する行為であるため、学校側は解雇処分などの対応ができなくなる。
また、自分を女と認識する男性従業員が女性用トイレや更衣室を使用すれば、他の女性従業員や客との間でプライバシーをめぐるトラブルが生じる。だが、これも性自認に起因する行為であるため、企業経営者は適切な措置が取れなくなる。
さらに、「平等法案」が成立すれば、伝統的な宗教道徳に基づき同性婚や同性愛に反対する人々の信教・言論の自由が圧迫されることになる。
既に、性的指向や性自認に基づく差別を禁じている州では、結婚は男女間のものと信じるキリスト教徒の事業者が訴えられて罰金を科されるなどの事例が相次いでいる。オレゴン州では、同性婚のウエディングケーキ作りを断った元ケーキ店経営者が州当局から13万5000㌦(約1700万円)もの巨額の罰金支払いを命じられ、宗教界を震撼させた。
リベラル派法曹団体「全米自由人権協会」(ACLU)のルイーズ・メリング副法務部長は、ニュースサイト、ハフィントン・ポストで「連邦ではパン屋が同性婚のケーキ作りを拒否するのを防ぐ法律がなかったが、平等法案はこれを違法にする」と断言。実際、「平等法案」は信教の自由を擁護する1993年成立の「宗教の自由回復法」を根拠に差別を正当化することはできないと、信教の自由よりLGBTの権利が優先されることを明確にしている。
1964年制定の公民権法を通じ、黒人に対する人種差別がタブーとなったように、「平等法案」を成立させることで同性愛や性転換に対する批判を一切許さない社会を実現することがLGBT勢力の目標だ。キリスト教福音派系有力団体「家庭調査協議会」は、「同性愛や性転換が身体的、道徳的に健全であるかどうか、わずかな疑問さえ誰も表明しない世界を連邦政府につくらせようとしている」と指摘する。
「平等法案」は上院議員40人、下院議員155人が共同提出者として名を連ねている。ただ、全員が民主党議員で、共和党議員は1人もいない。このため、共和党が上下両院を支配する現状では成立する可能性はほぼゼロだ。
それでも、民主党議員の大多数が法案に賛成し、また、2016年大統領選の同党最有力候補ヒラリー・クリントン前国務長官も支持を表明している。民主党政権の下で同党が上下両院を奪い返す展開になれば、「平等法案」が成立する可能性は大きく高まる。






