コミュニティー・オーガナイザー、アリンスキー理論を実践
再考 オバマの世界観(11)
2008年8月、米デンバーで開催された民主党全国大会で、当時、上院議員だったオバマ氏が大統領候補指名受諾演説を行ったその3日後、ボストン・グローブ紙にマサチューセッツ州に住むある男性の投書が掲載された。
「民主党全国大会はソウル・アリンスキー方式で完璧に組織化されたイベントだった。今は亡き私の父が生み出した手法は、変革を現実のものにする強力な戦略だ。オバマ氏は彼の教えをしっかり学んだ」
投書を書いた男性の名は、デービッド・アリンスキー氏。オバマ氏がシカゴで3年間務めたコミュニティー・オーガナイザー(CO)の活動や理論を体系化した極左活動家ソウル・アリンスキー氏(1909~72年)の息子である。
デービッド氏は「私の父の手法が地方のコミュニティー・オーガナイジングの枠を超え、民主党の選挙運動に影響を与えたことを誇りに思う」と述べ、オバマ氏がソウル氏の理論を選挙運動に応用し、大統領候補の座を掴(つか)んだことを大いに喜んだ。
オバマ氏が1985年にシカゴにやって来た時、ソウル・アリンスキー氏は既にこの世を去っていた。だが、シカゴにはアリンスキー氏が築いた強力なネットワークがあった。オバマ氏は「地域開発プロジェクト」という組織で、主に黒人をオルグする活動に従事するが、オバマ氏を雇い、指導したのは、アリンスキー氏が設立した「産業地域財団」で訓練を受けた同氏の弟子たちだった。
ニュー・リパブリック誌によると、アリンスキー氏が確立したコミュニティー・オーガナイジングの中心は、「アジテーション(扇動)」だという。地域住民の怒りや不満を煽(あお)り、政府権力への敵意を増幅させ、集団で対立的行動を取らせる。これがCOに求められた役割だった。
オバマ氏はアリンスキー氏の理論や手法に共鳴し、すぐに吸収していく。
「彼は誰もが認めるアジテーションの達人だった」
オバマ氏を指導したマイク・クルーグリク氏は、同誌にこう語っている。自信家で弁舌に長(た)け、カリスマ性のあったオバマ氏は、COとして天性の才能を備えていたようだ。
アリンスキー氏は1946年の著書「過激派の起床ラッパ」で、「過激派は経済の生産手段が少数ではなく全ての人に所有される将来を望む」と書いており、資本主義を打倒し、社会主義を実現することを最終目標に位置付けていたことが分かる。
だが、従来の過激派と大きく異なるのは、そのアプローチだ。アリンスキー氏は性急な暴力革命は非現実的だとして否定し、時間をかけて漸進的かつ密かに米国を社会主義化していくことを説いた。同氏が「極左のプラグマチスト」と呼ばれる所以(ゆえん)だ。
そこで重要な役割を担うのがCOだ。COが地域住民をオルグして徐々に米国を社会主義の方向に導いていく。つまり、アリンスキー氏にとって、コミュニティー・オーガナイジングとは、長期的に推し進める「秩序ある革命」なのだ。
オバマ氏がアリンスキー氏の理論に傾倒したのは、過激なイデオロギーを現実的手法で実践する戦術に有益性を見いだしたからだ。左翼活動家のバイブルと崇(あが)められる同氏の72年の著書「過激派のルール」には、「現実的過激派のための実用的入門書」との副題が付いている。
冒頭の投書が指摘するように、アリンスキー氏の教えを政治に応用したことが、オバマ氏の成功をもたらす大きな要因となったのである。
(ワシントン・早川俊行)






