「自己封じ込め」政策 根幹にあるのは自虐主義
再考 オバマの世界観(2)
「オバマ米大統領の政策は自己封じ込めだ」
ドイツを代表する週刊紙ツァイトの共同発行人ヨーゼフ・ヨッフェ氏は、5月11付の米紙ウォール・ストリート・ジャーナルへの寄稿でこう断じた。米国は第二次世界大戦後、対ソ連封じ込め政策によって「パックス・アメリカーナ」を実現し、米国と世界に大きな利益をもたらしたが、オバマ氏は国際秩序に挑戦する勢力を封じ込めるのではなく、逆に米国自身を封じ込めている、というのだ。
ヨッフェ氏は、弱腰と批判されたカーター元大統領でさえ、ソ連のアフガニスタン侵攻を機に軍備増強に転じたにもかかわらず、「オバマ氏のラーニングカーブ(学習曲線)は6年間平坦なままだ」と批判。世界への関与を減らすオバマ氏の内向き姿勢が、ロシアのウクライナ介入や中国の南シナ海進出を助長しながら、そこから何の教訓も得ないオバマ氏の学習能力の低さを嘆いた。
ヨッフェ氏の評論は「自己封じ込め」と論じたことで注目を集めたが、オバマ外交の本質をもっと早い時期に見抜いていたのが、米シンクタンク、ハドソン研究所のダグラス・ファイス、セス・クロプシー両上級研究員だ。共和党政権で国防総省高官を務めた経歴を持つ両氏は2011年、コメンタリー誌に掲載された論文で、「オバマ・ドクトリンは自己封じ込めだ」と喝破していた。
両氏によると、オバマ・ドクトリンの根底にあるのは、超大国の米国は傲慢(ごうまん)かつ自己中心的な行動で国際秩序を乱してきたことから、米国のパワーや行動を抑制することが、米国と世界の利益だと捉える考え方だという。これは米国を世界に不可欠な善の力と位置付ける、戦後、党派を超えて共有されてきた米外交政策の基本的理念を真っ向から否定するものだ。
ファイス、クロプシー両氏はその裏付けとして、オバマ氏の側近サマンサ・パワー国連大使とオバマ政権1期目に国務省政策企画局長の要職を務めたアン・マリー・スローター氏の主張を例示している。
パワー氏は03年の論文で、「米国はならず者国家から世界を守る警察官ではなく、国際法による封じ込めが必要な暴走国家」だと批判。国際社会の信頼を取り戻すには、ワルシャワでナチスの犯罪をひざまずいて謝罪したドイツのブラント首相のように、米国の指導者も過去の過ちを謝罪すべきだと主張した。
スローター氏も08年の論文で、「イラク侵攻や拷問、国際法無視など同時テロ後に犯した深刻な過ちを世界に認めるべきだ」と主張。07年の論文では「世界から尊敬されるほど、米国の外交力は高まる」とし、他国との平等や謙遜、自制が重要だと説いた。米国が自らの行動やパワーを制約すれば、世界から尊敬され、逆に影響力は高まる、という奇妙な論理である。
パワー、スローター両氏の主張から見えてくるオバマ・ドクトリンの根幹は、米国を世界の問題児と見なす自虐主義だと言える。保守派評論家のディネシュ・デスーザ氏は言う。
「レーガン元大統領はソ連を悪の帝国と呼んだが、オバマ氏は米国を悪の帝国と見ている」
デスーザ氏の激しい批判には異論も多いが、それでもオバマ氏が米国の歴史や超大国の地位を否定的に見ているのは間違いない。だからこそ、国際問題への関与を減らし、国防費を大幅に削減するなど、米国の影響力を低下させる政策を取るのである。
オバマ氏の外交政策には一貫性がないと言われ続けてきたが、底流には極めてリベラルな世界観に基づくドクトリンがあったのだ。
(ワシントン・早川俊行)






